**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第997回配信分2023年06月05日発行 ゼロゼロ融資の後遺症 〜ゾンビ企業はこれからどうするか〜 **************************************************** <はじめに> ・ここ数か月、いくつかの企業の経営上のご相談があったが、いずれもコロナ 収束後の業績回復が思わしくないという内容だった。このままでは、今年の10 月、あるいは来年の4月からのゼロゼロ融資の返済開始に対応できない。どう すればいいだろうか?という内容だった。事業内容、企業規模は違うが、相談 の中身はほぼ同じだ。過去の実績と昨今の業績を見せてもらうと、実は以前か ら業績が悪かった。この悪かった業績にコロナの災難が降りかかった。本来 は、ここでご臨終になる可能性も高かったが、ゼロゼロ融資という麻薬を注射 し生き延びた。生き延びた間も、一向に業績は改善せず、コロナ収束後も回復 する兆しがない。おおよそ、このような似たりよったりの状況だ。 ・過去から業績が芳しくなかった。条件変更を繰り返し、何とか凌いできた。 さかのぼれば、30年以上前のバブル崩壊、10年以上前のリーマンショックか ら、業績は低迷していた。以来、ずっと条件変更、借り換え、役員借入を繰り 返し、たまに業績が改善した決算期には利益から少し内入れしてきた。しか し、またぞろ業績が低迷すると返済金額の削減を依頼し、金融機関、保証協会 も、しぶしぶ承諾した。結局、そのまま、何も改善されないまま、今回のコロ ナ禍で一層業績が悪化した。しかし、干天の慈雨とも言うべき「ゼロゼロ融 資」という「棚ボタ」があり、一気に手元現金が楽になった。借りた時点で は、返済のことなど考えなかった。その時になればなんとかなると、鷹揚に構 えていた。しかし、局面は一向に改善しなかった。 ・手元資金は一時的に潤沢になった。無利子、無担保、無保証なので、非常に 気楽だった。いわば、国が保証するのだから、ほとんどノーマークで融資が承 諾された。簡単な事業計画、返済計画を書いたが、自身でも実現可能性は疑問 だった。それでも、内容の精査はほとんどされずに、融資案件は承認された。 当時の金融機関や保証協会、公的支援機関の人達とは親交があったので、その 時の状況は手に取るようにわかる。金融機関と保証協会は山積みの融資申請書 類を、何とか早く片付けないといけない。時間との闘いだった。手押しの台車 に段ボール箱を山積みにして、申請書類を持ち込む風景が日常茶飯事だった。 あの融資で一命をとりとめた企業は、確かに多かった。救済したといえばそう だが、本来ご臨終になる企業も生き延びた。これがゾンビ企業だ。 <意味があった融資と意味のなかった融資> ・ゾンビ企業とは、経営状態が破綻しているにも関わらず、金融機関や公的機 関、政府機関の金融支援で存続している企業のことだ。語源的には、アフリカ や南米のヴードゥー教という宗教で、死人のまま蘇った人間のことを指す。売 上はあるが、原材料の変動費と給料、経費などを支払うと、借入金の利子分を 払う資金しか手元に残らないという企業のことだ。つまり、借入金の返済原資 が捻出できない。従って、通常の約定返済はできないので、何らかの形で返済 期間の延長や、減額返済を行っている。最悪は、一定期間返済金額をゼロにし て、金利のみを支払っている。ゼロゼロ融資はこのような企業にも融資され た。融資後一定期間、返済猶予、金利負担なしという条件だ。当然、個人保証 も求めない。一時的に、手元資金は当然潤沢になる。 ・ゾンビ企業は企業の存続を政府機関や金融機関に依存しており、回復の見込 みがないまま、政府機関や金融機関が終わりのない支援を続けることになる。 つまり、病気でいえば退院の見込みのない患者を永久に植物人間として入院さ せていることと同じだ。永遠に医療費を投入し続け、いつ回復し退院できるか わからない。医療費の大部分は公的な社会保険でカバーしているので、税金が 投入されていることと同じだ。気管切開し人工呼吸器を装着し、栄養はチュー ブで胃ろうという方式で口からではなく直接体内に注入される。モニターに 時々刻々バイタルが表示され、少し異常があるとスタッフが飛んできて処置が 施される。一命はとりとめ、生存はするが、回復の可能性は皆無に近い。 ・ゼロゼロ融資の目的はゾンビ企業の存続ではなかったはずだが、なぜかその ような副作用も多く起こってしまった。この融資で一時的に危機を回避でき、 次の回復への栄養を補給でき、コロナ後に備えることができた企業も多かった ことも事実だ。なので、すべてを否定するつもりはないが、単なる延命になっ た企業が多くあったことも事実だろう。つまり、無駄な医療費となった税金が 結構あったはずだ。無駄だったか、無駄でなかったかは、今後の業績次第だ が、昨今の現状を見ると、回復できている企業は、もう回復の兆しが見えてい る。昨年の秋ごろから徐々に回復し、今年になってから回復の傾向が明らかに なった。そして、この春からの景気回復ではっきり業績挽回の数字が見えてき た。このような企業への融資は、意味があった。 <末期がん患者に治療は意味があるか> ・問題は、この時期になっても依然として業績の回復が見込めない企業だ。以 前の7割くらいまで回復しているのなら、何とか固定費を削減し、いくつかの 店舗をたたみ、ぎりぎりまで体重を落として、存続できる可能性はあるだろ う。問題は、売上も回復せず、経費の削減もできず、以前とそのままの状態で ゼロゼロ融資を食いつぶしている企業だ。これで返済が始まると数か月以内に 資金繰りがパンクするのは見えている。ならば、どうするか。ところが、ここ で政府はさらなる延命策が可能になる方策を打ち出した。返済期日の延長であ る。まず、半年延ばす。さらに半年ごとに見直して、順番にスライドしてい く。何のことはない、延命策そのものだ。救命措置を続けて、いつになるか分 からない回復を期待する。もちろん、突然のラッキーで回復する企業もあるだ ろうが、それは稀だろう。 ・半年の延長には相当難儀なレベルの高い事業計画、返済計画を記載した申請 書、説明書を作成する。この作成は、なかなか普通の中小零細企業には難し い。このレベルがすんなりと作成できるレベルなら、ここまで業績は悪化して いないだろう。また、業績の改善には準備期間も必要だ。一定の資金も必要に なる。また、売上が増加する際には、普通なら仕入れが先に発生する。人件 費、外注費、販促費も先行で要るだろう。そのような売上増加のための必要資 金がもうない。となると、簡単に売上の増加は見込めない。単に、NETやWEBで 販売すればいいというものではない。リアルの事業がしっかりしていてこそ、 バーチャルの売上が見込める。現実の事業が手詰まりだからといって、簡単に NETでものが売れると思うのは、勘違いも甚だしい。 ・金融機関や保証協会の姿勢も課題だろう。簡単に破綻させたというレッテル を貼られたくない。ましてメインバンクが断って貸しはがしをしたという風評 が立つのはまずい。となるとまたぞろ、モルヒネを注射して一時的な痛み止め を行う。モルヒネの効果が切れたら、またモルヒネを注射する。これを繰り返 しているうちに、体力は消耗し、いつかはご臨終を迎える。担当医としては懸 命の延命治療を行ったという自負は残る。しかし、結果的には延命しただけ だ。家族や本人がそういう終末医療を望んでいたか。つまり、回復の見込みの ない患者に永遠に救命措置を続けることになる。なかには、植物人間状態から 奇跡の回復を遂げた人もあるだろう。そういう患者の場合、主治医は当然それ をわかって治療している。しかし、ガンの末期患者はそうはいかない。静かに ホスピスで終末医療を受ける。 <回復が見込めない患者の延命措置は> ・ゾンビ企業といわれる企業のうち、どれくらいの企業に回復の見込みがある のかは、当事者と直接の利害関係者しか分からない。失礼ながら、金融機関や 保証協会の担当者では、本当のところがわかるだろうか。申請書に書かれた文 字や数字から読み取るしかない。あとは代表者の説明から判断するしかない。 我々、このような案件に強い専門家でも、最終の判断はつきにくい。むしろ、 数字や文字の資料より、代表者や後継者の人間そのものの意思の強さ、使命 感、やる気、勇気などを感じ取れるかが大事だろう。困窮の理由を他人のせ い、社会環境のせい、政治家のせい、銀行のせいにしている限り、その企業の 回復は望めない。自分自身の不徳の致すところだと自覚して、まず自身の気持 ちの持ちようから変える勇気を持っているかが問題だ。 ・仮に、回復の見込みがないとしたら、どうすればいだろうか。それは、事業 を畳むしかない。畳み方には、いろいろあるだろう。最悪は破産という法的処 理になるかもしれないが、そこまで最悪にならないように、いろいろと打つ手 はある。大事なことは、そうすることを決心することだ。事業に一定の価値が あれば、引き継ぐ企業を探すこともできないことはない。現に、いま、進行中 の案件は、まさに事業価値はあるのだが過去の運営がまずくて、事業が頓挫し た。現在、引き継げる可能性のある企業と交渉中だが、前向きに進みそうだ。 くどいようだが、事業価値がないといけない。一定の金融債務は残るが、何と か処理できそうな金額に落ち着きそうだ。地元としては、何とか残したい企業 なのだ。 ・事業価値が見いだせない企業の場合、最小限の出血で終わるような治療を施 す必要がある。場合によっては、後遺症や障害が残る場合もあるだろう。しか し、それでも、死亡に至るよりはましだと思うなら、その選択を早めにすべき だ。時間が経過すればするほど、事態は悪化の一途をたどる。病気と同じだ。 ガンの治療と同じだ。早期発見、早期治療が大前提だ。しかし、当事者はそう は思わないし、思えない。いつまでも、夢よもう一度と、淡い期待を抱いてい る。そういう企業を残してしまったのが、現在の日本経済の低成長の原因のひ とつだろう。元気で、立派な中小企業はたくさんある。そういう企業に、優秀 な人材を集めないといけない。そのためには、足を引っ張る企業の整理が必要 だ。勇気をもって、一時的に痛みを伴っても、障害が残っても、英断しないと いけない。