**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第996回配信分2023年05月29日発行 G7広島サミット終わる 〜この成果をいかに具体的な結果に結びつけるか〜 **************************************************** <はじめに> ・3日間のG7首脳会議が終了した。最終日は、G7以外の招待国も参加して、 拡大会議が開かれた。前回7年前のG7会議の雰囲気とは一変し、どちらかと いうと「ウクライナサミット」という感が強かった。戦争中の当事者国である ウクライナの大統領が、急遽参加することになり、さながらウクライナ戦争が 一番の議題になった。平和の象徴である広島で開催された会議で、戦争当事者 国の片方であるウクライナの大統領が来て、武器供与を督促するという、ある 意味前代未聞の国際会議になった。案の定、ロシア、中国は非難の声明を発表 し、西側諸国との対立が一層鮮明になった。議長国の日本は、非常に微妙な立 場で、声明の発表内容も、苦心惨憺した文言が並んでいた。 ・想像以上に、この共同声明に中国は敏感に反応し、最大限の批判を展開し た。内政干渉との自説を声高に主張し、日本大使を呼びつけて遺憾の意を表明 した。今後、この影響は多くのところに頻出する可能性が高い。隣国である日 本へのマイナスの影響は避けられない。おりしも、米中貿易戦争の真っただ中 であり、電子部品市場での熱い戦いも継続している。その一方で、米中は相互 に最大の貿易相手国なので、片方で喧嘩しながら、片方では目をつぶって相互 の利益を守っている。したたかといえば、したたかで、真面目に交渉を繰り返 している日本の国民感情とは、少し違和感がある。尖閣諸島の問題はじめ、中 国は確かに力で東シナ海の現状を変えようとしているのは事実だ。これを争う と相当ややこしい。 ・イタリアの首相も、自国の大雨の大災害の後始末を早くやる必要に迫られ、 途中で帰ってしまった。インドとウクライナとの折衝も、相互に主張をぶつけ 合うだけに終わった。ブラジルとウクライナの交渉テーブルは、日程と時間の 都合で開催できなかった。ブラジルの大統領は、このG7で武器供与の話しを するのはおかしいと主張し、そういう話は国連の場でするべきだと主張した。 これは当然と言えば当然で、本来そうすべきだが、常任理事国の構成上、国連 が機能不全に陥っている。非難の応酬に終始し、何も決まらないし、決められ ない。安保理の常任理事国の拒否権が行使され、仕方なく総会の場で採決を取 るくらいだ。影響力はほとんどなく、無視されている。 <核兵器廃絶の道のりを示さないといけない> ・原爆資料館の見学が40分行われた。原爆の被害を被った都市広島でG7サ ミットが開催されたこと自体にも意義があるが、少ないとはいえ40分でも各国 首脳が展示を見たことは意味がある。しかし、世界で唯一の被爆国日本が、核 兵器に対し明確なポジションを取れないのは、非常に歯がゆい事態だ。中国や ロシアには核兵器を放棄せよと主張し、自国は核兵器を持てないからアメリカ の核の傘で守られることを選択している。どう考えても、二元論で矛盾だらけ だが、致し方ないという現実を容認するしかない。この立場である限り、日本 がいくら被爆国だと主張しても、影響力は弱い。表通りを歩きにくいので、裏 通りをこそこそと通っているのに似ている。もう少し、まともな主張はできな いものか。 ・このG7にロシアも特別に呼んで、岸田首相がリーダーシップを発揮して、 停戦交渉に近づける努力をすれば最高だったが、とてもいまの日本の力では実 現できない夢物語だ。どうも議論は西側諸国に偏り、ウクライナへの武器供与 のお墨付きを与えるだけの場になった。停戦交渉が難しいことはよくわかる が、トルコも国内事情が混沌としてきたし、中国が漁夫の利を占めようと仲介 役に名乗りを上げている。どこまでの現実に戻すのかを、真剣に討議して、国 連が乗り出して非武装地帯を設けるなどの妥協案を提示するべきだ。クリミア 半島をどうするかが最大の焦点になるだろう。ロシアは黒海への出口の不凍港 を確保することが最大のミッションだ。そのためのクリミア奪還であり、これ は譲れないと主張するだろう。 ・多くの成果は残せたと思うが、本当はこれからが勝負だ。総論賛成、各論進 まずというのは、よく日常でも目にする光景で、建前と本音が錯綜する政治の 世界では日常茶飯事であることだ。美辞麗句を並べて、耳障りはいいが、果た して本当に実効が上がって結果が出るか。とにかく、何とかして停戦、終戦に 持ち込まないといけない。ロシア、中国との関係も修復しないといけない。国 連も機能不全、G7も一堂に会したはいいが機能不全では、何のために集まっ て、鳩首会談をしたのか分からない。各国も多くの公費を使い、数日の貴重な 時間を費やしてまとめた首脳宣言だ。お題目に終わってはいけない。警備に も、前後多くの会議にも、準備にも、多額の税金が投入された。単なるイベン トで終わってはもったいない。 <政治の方向がこれからを決める> ・一応、期待した成果が出たので、内閣支持率が上がったから、これをいい機 会だととらえて衆議院を解散するという風が吹いている。まだ相当期間の任期 を残しているのに、どうして今解散なのだろうか。つまり、野党の体制が整わ ないうちに、パンチを見舞ってずたずたにしようという魂胆か。小選挙区だか ら、1つの選挙区に1人しか当選しないので、現時点では野党が候補者を擁立 できない選挙区が多いはずだ。つまり、まだ準備ができていない。ならば、抜 き打ち的に、いま解散すれば圧勝できる可能性があるというのが主張だろう。 しかし、これはおかしい。党利党略で衆議院の解散をするものではない。選挙 の争点もはっきりしない。国民に何を問うのかという争点がわからない。多額 の税金を使い、政治を一時空白にしてまで、いまやる大義名分が立たない。政 治家とは自己中心的なものだ。 ・大事なことは、いま、国政で争点になっている多くの課題の方向を明確にす ることだ。異次元の少子化対策、中国や北朝鮮との防衛の方針、コロナ後の経 済の復活、為替の是正、大量発行した国債の後始末、金利の調整、などなど多 くの重要な課題が山積している。この時期に党利党略で解散しても、誰も納得 しない。喜ぶのは、ポスターを印刷する印刷会社だけか。選挙になると、接待 交際が止まり、飲食などの業界は、一時期冷えることになる。せっかく、コロ ナ後に立ち上がった業界が、またぞろ停滞することになるだろう。この時期に 解散しても、何もメリットがない。それより、きちんと任期を全うし、争点を 明確にして国政選挙を堂々とするほうが、筋が通っている。一部の大きな声の ベテラン幹部の挑発に乗ってはいけない。 ・自民党も自民党だが、公明党を含め多くの政党が迷走している。維新の会も 同様に、追い風で勢いはあるが、どのような方向に日本国を導いていくのかと いうグランドデザインが見えない。東京のたったひとつの選挙区の候補者争い で、現在の政権の協力枠組みが崩れる可能性がある。お互い、メンツ争いに なっている感がするが、これだけのことで国の政治の方向が決まるのかと思う と、日本の政治家のレベルが低いと言わざるを得ない。もっと、大所高所の大 きなステージの議論を聞きたいと思うのは、我々だけではないだろう。20年、 30年後の日本は人口が激減し、前例のない高齢化社会になる。空飛ぶ自動車が 開発されても、少子化高齢化の歯止めにはならない。海外からの働き手を多く 受け入れるのか、それとも独自の路線を行くのか。健全に社会のサイズを小さ くするのには、相応の痛みを伴う。 <最後はお互いの器量の勝負> ・多くの成果はあったが、今後の実現性、実効性が問われるだろう。果たし て、その場で日本国の代表がリーダーシップを取って、立っているだろうか。 声明だけは立派でも、誰もそれは評価しない。実際に、行動レベルで行い、結 果を出してこそ、サミットを開催したという意義がある。言葉だけ、ぶちあげ ただけで、実効が伴わないことが過去には多かった。アドバルーンを上げた が、実際には何も結果が出なかったという事例が、あまりにも多い。地球環境 問題もそうだ。京都宣言などという共同目標が掲げられても、実際にやってい ることはそこから大きく乖離していることが多い。本音と建前の使い分けとい えば、それまでだが、国際公約の形で宣言したことは実行しないと意味がな い。とかく以前の日本は、聞こえはいいが、行動内容に乏しいものが多かっ た。 ・ウクライナ戦争の調停仲介も、数か国が名乗りを上げている。それぞれの国 の思惑はあるだろうが、真にこの戦争を終結し、平和を構築するためには、相 当の難儀、困難を乗り越えないといけない。当事者に近い利害関係国では難し い。ほぼ両者に中立な国でないと難しいだろう。日本は現状あまりにアメリカ 寄りに立っており、完全にニュートラルではない。なので、ロシアは日本から の誘いには乗らないだろう。あるいは、駆け引きで北方四島返還を放棄するな ら、という無茶な条件を付けてくるかもしれない。落としどころは難しいが、 とにかく、まず停戦に持ち込むことだ。戦争をいったん停止し、非武装地帯を 設定し、相当の間停戦を守るという約束のもと、交渉のテーブルに着かないと いけない。 ・経済安保関連の声明は大いに意味があるが、逆に中国の神経を逆なでした。 今後、アジアでは中国との対峙の仕方に細心の注意を払う必要がある。韓国は こちら向きになってきたので、残るは中国と北朝鮮だ。中国との交渉は、相当 外交に長けた内閣でやらないといけない。彼らは中華思想というのが根底にあ り、現在中国は一帯一路政策もあり、アジアからヨーロッパにかけて広大な経 済ベクトルを作ることに成功した。今後、アジアの各地で中国との経済争い、 覇権争いが鮮明化してくるだろう。今後の日本経済の行方を占う大きな要因 は、外交かもしれない。国際緊張の中でどうやってこの難局を乗り切るか。国 内で低レベルの政治ごっこをやっている暇はない。そういう意味で、現在世界 の各国と互角に渡り合える人材が乏しいか。いくらAIが進化しても、最後の交 渉は人間同士の器量の勝負だ。