**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第985回配信分2023年03月13日発行 陰りの見え始めた中国経済 〜人口減少と土地バブル崩壊が衰退の兆し〜 **************************************************** <はじめに> ・3月5日から第1回全人代会議が中国で開幕した。日本の国会にあたるこの 全人代では、予算や人事などの重要な決定が行われる。今回で退任する李克強 首相が演壇に立ち、2023年度の国内総生産(GDP)の成長率の政府目標を5.0% 前後と設定。世界経済がコロナ禍で不透明な中、昨年度の目標より0.5%引き 下げた。どちらかというと控えめな目標にして、最終の実態との大きな乖離を 起こさないように配慮した。過去には2桁や苦しいときも8%程度の成長率目 標を掲げていたが、ここにきてまだコロナの痛手から回復できない国内経済の 停滞を印象付けた。14億人の人口を抱える中国では、1,000万人以上の新卒就 職希望者が毎年発生する。これらの若者を失業させないためには、5%前後の 成長率ではカバーできない。 ・国全体の予算は控えめながら、国防費は前年度7%以上の増額をする。総額 約30兆円で、日本の国防費の約4.5倍だ。アメリカとの対立、ロシアのウクラ イナ侵攻を踏まえ、明らかに軍備の増強に走り出した。国防費の伸び率は前年 を0.1ポイント上回った。伸び率の上昇は3年間連続している。習主席の軍隊 を強化する方針を数字で示した形で、「訓練と戦闘準備を全面的に強化する」 という従来からの路線が、さらに一層打ち出された。台湾の独立を認めないと いう主張も強固なものになり、統一の道を歩むという方針も明確になった。ア メリカや日本、韓国の東アジアでは、台湾有事を前提にことは動いているが、 可能性が徐々に高まりつつあることを、この予算案は暗示している。絵空事で はなくなってきた。 ・3月13日までの期間中に、習近平国家主席の3選が確定する。任期満了の李 首相の後任には、側近の李強氏が選出される。序列第2位で、過去には習近平 氏の部下でもあった。その他の主要なメンバーもこの大会で選出、確定する が、経済閣僚の人選に不安があるという指摘もある。中国は2022年に相次ぐ主 要都市のロックダウンで経済が一気に低迷し、成長率は3%台に落ち込んだ。 各地で起きた感染爆発も、コロナ対策で「決定的な大勝利」を勝ち取ったと自 画自賛。「ゼロコロナ」政策は1月に完全終了して、今後は今回大会で採択さ れた方針に基づき、内需拡大と雇用対策を重要視していく。中国経済が停滞す ると、貿易相手国はじめ周辺の国々に大きな影響を与える。特に、日本を始め 周辺諸国は中国との貿易で成り立っていると言っても過言ではない。 <人口減少が始まった中国> ・懸念されるのは不動産バブルがはじけそうなことだ。多くの都市部で建設中 の新築マンションの工事がストップしている。土地価格は値下がりし、一時期 の日本のバブル崩壊の前兆のような数字も見えてきた。工事がストップしたマ ンション建設地区では、ゴーストタウンのようになっている風景をよく目にす る。平成初めの日本のバブル崩壊も、株高、土地高の様相が一夜にしてもろく も崩れ去った。それに似た兆候も見え隠れし、地方都市をかかえる自治体では 赤字の補填をどのようにすればいいか、中央政府の方針を疑心暗鬼の想いで眺 めている。住宅産業は中国においてすそ野は広く、多くの労働者がこの業界に 関わっている。それがこけるのは、非常に痛い。 ・アメリカとの貿易摩擦によるマイナスの影響も大きい。しかし、表面的な貿 易摩擦は継続しているが、民間ベースの貿易は結構活発に動いている。今後、 情報通信機器の業界に規制がかかり、中国製の情報通信機器の使用制限がかか り、締め出しをするだろう。多くの極秘通信やインフラ系のコントロールに障 害が起こる可能性が高いからだ。先日、アメリカの情報関係のトップが協議 し、今後中国製品の使用を制限する方針を決めた。そのために、アメリカ国内 で半導体や情報通信機器は国内製造に回帰するとの見方が強い。軍事、学術、 インフラなど主要な情報通信装置への中国製の製品、部品の使用を禁止するこ とになるだろう。中国国内で運営されているアメリカ企業の立ち位置も問題に なる。 ・中国の人口減少が始まることもリスク要因のひとつだ。人口の絶対数でイン ドに抜かれた。これから中国は日本の後を追って、少子化高齢化が猛烈なス ピードで加速する。いったん少子化のスパイラルに入ると、これを克服するの は容易なことではない。日本国内での先例を見ても、それは明らかだ。少子化 を止めようとすれば、給付型の対策では止まらない。仕組みや制度を変えて、 安心して子育てができる環境を用意しないといけない。成長率に陰りが見える と、人は将来に対して不安を抱く。特に、若年層の希望がしぼんでしまう。そ うなると、結婚して、子育てをしようという意欲がわかなくなる。年金の問題 もそうだ。あと40年先のことは分からない。いま、20代の若者が年金をもらえ る年齢になったころの想像ができないからだ。 <台湾進攻は本当にあるか> ・中国国内でのリスクが高まるのと比例して、台湾進攻が現実味を帯びてき た。2026年から27年にかけて、本気で中国が台湾に侵攻するというシナリオが 現実化してきた。アメリカでは、もう以前から中国の台湾本土への進行のシ ミュレーションを行っている。多くのケースが想定されるが、日本国内のアメ リ軍基地から戦闘機が飛び立つのは間違いない。いきなり海上に多くの艦船を 繰り出して、上陸用舟艇で多くの兵士が台湾の海岸線に上陸するというシナリ オはないだろう。まず、海上封鎖をして兵糧攻めにするのが常道だ。それと、 中国はTSMCなどの最先端製造業の工場や生産設備が欲しいはずだ。航空機によ る空爆などの愚策を行うとは思えない。 ・香港がいい先例だ。1国2制度という詭弁を弄して。まずは自治権と独立し た運営を認め、その後徐々に真綿で首を絞めるように、じわじわと締め付ける のが中国のやり方だ。自国では、いきなりの制度変更が得意技だが、他国を併 合しようとすると意外と時間をかけてゆっくり行う。ゆでガエルのように、 徐々に徐々に制度を導入して、気が付いたら乗っ取られていたという既成事実 を積み上げる。環境の激変は経済に大きなマイナスの影響を及ぼす。台湾を中 国が併合する目的は、経済活動の果実が欲しいからだ。特に、半導体などの最 先端情報機通信機器の製造業が欲しいはずだ。そのためには、乱暴な侵攻を行 うとは考えにくい。ロシアがウクライナ侵攻で行ったような墓穴を掘るような ことはしないだろう。 ・ロシアとウクライナ戦争の趨勢も大きな影響を及ぼす。仮に、ロシアがウク ライナ戦争に敗れてプーチン大統領が失脚し他国に亡命するとなると、ロシア が中国の属国になる可能性もある。天然資源が豊富なロシアの国土を中国が統 治下に収める可能性もある。そうなると、台湾進攻は後回しになる可能性が高 い。台湾への武力侵攻より、ロシアを暫定的にせよ統治下におく方が優先す る。シベリア鉄道で物資を運ぶには時間がかかるが、中国は東シナ海への出口 を持っている。香港、マカオなどの出口がある限り、交易面では有利だ。ウク ライナ戦争の行方によっては、世界の勢力図が大きく変わる可能性がある。お そらく中国と台湾の揉め事より、ウクライナとロシアの決着の方が早いだろ う。目が離せない。 <これからはインドに注目> ・中国経済が人口減少、土地バブルの崩壊、習近平体制の弱体化などで、徐々 に陰りが生じてくる。そこで伸びしろがあるのがインドと東南アジアだろう。 まず、東南アジアでは、ベトナム、タイ、シンガポール。それぞれ国の事情は 異なるが、今後の伸びしろは大きい。特にベトナム、タイは仏教国で、日本に 対する親日感情は非常に高いものがある。マイナス要因は言葉の壁だろう。英 語教育が浸透していないので、ビジネスの現場で英語が通じないハンディは大 きいが、経済的にはダブルインカムで、日本の中産階級くらいの収入が見込め る。大手の流通スーパーも進出している。シンガポールの国土は狭いが、狭い 国土に高付加価値のビジネスが集約されている。土地の価格は高いが、それ以 上のリターンがありそうなビジネスは有望だ。医療、ITなどの先端技術が売り のビジネスは成功確率が高い。 ・インドの市場は膨大だ。人口が中国を抜いて世界一になった。14億人の市場 の伸びしろはまだ途方もなく大きい。社会インフラビジネスも全く未成熟。上 下水道、電気、ガス、交通、道路、橋、鉄道、自動車など、昭和30年代の前半 の日本よりまだ後進国かもしれない。メリットは英語が通じる事、数学に強い 国民性。宗教は少し障害があるが、そのディメリットを差し引いても成長率は 期待できる。なにせ、少し以前に政府が決めた最優先課題がトイレの普及だと ときの首相が演説で言ったくらいだから、インフラの整備が全く追いついてい ない。しかし、頭脳明晰で優秀な人材は多い。なにせ、数字のゼロを発明?し た国だ。2進法というコンピュータの原理原則も、このゼロの発見発明による ところが大きい。少し日本から遠いので敬遠しがちだが、今後の市場として最 優先だろう。 ・隣国中国の経済が徐々に下方修正に向かう。そんなに急激にメルトダウンは しないが、成長一方で期待値満載というわけにはいかない。今後中国ビジネス との付き合い方を変えていく必要に迫られる。つまり、パイの大きさを狙って ビジネスを展開するのは、人口減少に向かう国では難しい。日本、中国など多 くの国で人口減少の減少が顕著になり、アフリカ、インド、中南米で人口が増 加する。そう考えると、狭い日本の国土で人口が今後増えない前提でのビジネ スモデルで、果たしていまの自社のビジネスが続くだろうか。急に変える必要 はないが、今後の投資対象はこの事実をはっきりと意識しておかないといけな い。中国一辺倒の考えは、今後改める必要がある。東南アジアからインドに目 を向けてビジネスをするか、国内で付加価値の高いビジネスにシフトしていく か。それをやるのは、トップの決断以外にない。