**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第978回配信分2023年01月23日発行 やっかいな隣人中国とどう付き合うか 〜外交防衛と経済のバランスをうまくとる〜 **************************************************** <はじめに> ・ご存じのように最近中国ではゼロコロナ政策を完全に廃止した。最後に残し ていた入国者への隔離規制を撤廃した。その結果、移動も完全にフリーにな り、旧正月での多くの人の移動が予測されている。一説には21億人という数字 が独り歩きしており、14億人の人口で21億人の移動だと一人当たり1.5回の移 動をするということなのだろうか。国内にとどまらず、海外に出かける人も多 いから、日本への入国者もこの間急増するだろう。日本への入国に関しては、 PCR検査を義務付けているから、水際対策にはなってはいるが、それでも検査 をすり抜けたりする確率は一定あるから、非常に怖いことだ。しかし、引っ越 しできない隣人がすることだから、無闇に無視もできないし、逆行することも 難しい。 ・とにかくこの国のすることは、我々の常識からすると異常なことばかりだ。 習近平政権が打ち出したゼロコロナ政策。完全にコロナを封じ込めるために、 異常とも思える制限、規制をかけた。大規模なマンションでも、一人感染者が 出たら完全に封鎖をする。周辺住民全員を医療機関で隔離する。そこまで行か なくても、外出を完全に禁止し、食糧、水、日用品は配給で我慢さす。次第に 冷蔵庫の食料が底を尽き、内緒で買い物に外出などすれば厳しい処罰が待って いる。もちろん会社に出勤などできない。自宅以外に出られないとなると、人 間の我慢の限界もある。とうとう、全国各地でゼロコロナ政策への反発が急増 し、暴動が発生した。きっかけはウィグル地区でのマンションの火災による大 量の焼死者の発生だったが、これも原因はゼロコロナ政策による封鎖が直接の 原因だった。 ・それ以上に中国が困ったのは、このゼロコロナ政策による異常な経済の停滞 だ。人流を制限すれば、遅からず当然経済は停滞する。計画の経済成長率には 遠く及ばず、業績が悪化する企業が続出し、その結果大量の解雇が起こり失職 する人が急増した。失業保険などがどうなっているのか知らないが、とにかく 若者の間で職を失う人が増加し、ゼロコロナ政策に対する批判のマグマが渦巻 いていた。そこに、ウィグル地区での大量の焼死者が出てしまったという事態 が起こり、一気に暴動に発展した。そこで、習近平政権はゼロコロナ解除に大 きく舵を切った。しかし、逆に言えば習近平政権は、いつか、どこかでゼロコ ロナ政策の解除をしないといけないと思っていたはずだ。ここを千載一遇の チャンスととらえ、海外からの批判は承知の上、想定内のできごととして、完 全解除に踏み切った。正確な数字の公表も差し控えた。 <無理やり経済を軌道に乗せる> ・我々の常識からすれば、何と乱暴なことかと呆れるが、これは中国政府にし てみれば、なんということはない。中国は、政治体制が特殊な国で、政府の上 に中国共産党がある。政府は、共産党が決めた方針を実行する機関だ。首相や 外相は中国共産党が決めた多くの方針を忠実に実行する機関なのだ。なので、 上位に位置する共産党の決定がすべて。昨年の共産党大会で第3期に入った習 近平は、執行役の首相、外相らを選んだが、彼らが決定を粛々と実行して結果 を出してもらうことが大事だ。しかし、この執行役メンバーで落ち込んだ経済 の建て直しができるのかが、非常に疑問視されている。多くの新しく建設した マンションは売れ残り、経済成長率の実績も大きく計画対比落ち込んだ。習近 平に対する批判もデモ隊の一部では叫ばれたが、このままの状態が続けば今後 は大衆の意向として顕在化するだろう。 ・習近平にすれば、どこかでゼロコロナに終止符を打ち、経済を回復軌道に乗 せる必要があり、その時期をうかがっていた。そこに暴動が起こったので、こ れは好機とばかりに一気呵成に開放に舵を切った。何かマイナスのことが起 こっても、原因は学生や大衆が求めたゼロコロナからの解放だと詭弁が使え る。案の定、解放した瞬間から感染の大爆発が起こった。今まで感染していな い人が多かったこと、ワクチンの普及が進んでいないこと、使用されるワクチ ンが中国製で性能に欠陥があること、などが取りざたされているが、結局のと ころは複合汚染だろう。それが証拠にTVで流れる映像からは、大量の未処理の 遺体や医療機関の大混乱の様子が見て取れる。しかし、政府は強気でゼロコロ ナ終了の方針を変えない。おそらく、このままで突っ走るのだろう。 ・とにかく人流を元に戻して、経済回復を軌道に乗せないといけない。そうで ないと、政権自体への批判がさらに高まる。そうなると、従来のルールを曲げ てつい先日第3期に入った自身への批判、不満が高まる。5年、いや、10年く らい先までの長期政権を目指す習近平にすれば、自分自身の足元が危うくな る。少々粗っぽい方法をとっても、誰にも文句は言わせない。海外諸国からの 批判はあるが、これが中国への大きな経済制裁などのアクションにはつながら ない。自国との貿易がどれくらい重要かは、その国自身がよくわかっているか らだ。一帯一路政策で、特に東南アジア、中近東などの諸国は、経済の中国へ の依存度は高い。EU諸国やアメリカが少々批判のトーンを挙げても、痛くも痒 くもない。 <日本の立ち位置は難しい> ・日本の立ち位置は微妙だ。尖閣諸島の問題では、領土の争いになっている。 数年先では、台湾有事のリスクもある。いま、沖縄周辺では、自衛隊施設の増 強工事がピークを迎えている。防衛の3原則も、国会での審議も踏まえず、先 般決定した。石垣島などでは、防衛関係の施設の建設が急ピッチで進んでい る。24時間3交替でのシフトで、昼夜を徹して建物の建設が進められている。 海上自衛隊と海上保安庁とのミッションのすり合わせも行なわれている。完全 に台湾有事を想定している。あるいは、東海沖大地震が起こって日本国内が混 乱しても、最後の防衛ラインは死守するという決意が見て取れる。アメリカと 中国が一触即発の状態になると自衛隊に緊急待機が発動されるだろう。アメリ カの海兵隊に離島専門の特殊部隊が創設される。いつ、偶発的なアクシデント が起こらないとも限らない。 ・日中交易の額は半端ではない。輸出も輸入も大きな額になっている。レア アース各種の輸入の大半は中国に依存している。いくら工場や設備を日本国内 で作っても、原材料が入ってこないことには、半導体製品自体が製造できな い。多くの製造業が中国国内に拠点を構え、多くの小売業が中国国内に店舗を 構えている。現地で合弁企業を作っている国内大手企業は多い。多くの日本人 が中国国内現地で働いている。成岡の長男も、中国瀋陽での当時勤務していた 大企業の新工場の建設に3年ほど滞在し、現地で3人目の出産も経験した。上 海には多くの日系企業が進出し、武漢には大手自動車関連の企業がほとんど進 出している。内陸にはIT企業が多く進出している地区があり、中国全土ではど れくらいの日経企業、日本人が働いているか想像できない。 ・食料の輸入、飼料の輸入も多い。100円ショップで売られている大半の製品 は中国本土で製造されている。完全な製品は日本国内で組み立てられているも のもあるが、途中の半製品、仕掛品、重要な部材、部品は中国で製造されてい るものが多いはずだ。ここ20年くらいで中国との交易額は急増した。アメリカ も同様のはずだ。当然、ここまで交易の関係が深くなると、真正面にことを構 えるのは得策ではない。難しい隣人だが、何とか我慢して付き合う方法を考え ないといけない。しかし、その難しい隣人が常に理不尽な振る舞いを続けるの で困っている。国際的なルール違反を気にせず、突然のちゃぶ台返しをものと もしない。大人しい日本人からすれば、非常に好戦的に見える。大量のカネを ちらつかせて、海外の拠点を買収にかかる。東南アジアの海に、いきなり埋め 立てて要塞を一夜で作る。 <腹を括って付き合う> ・それでも、今まで我慢して距離を置いて付き合ってきた。しかし、昨今の国 際情勢は緊迫してきた。アメリカとNATO連合のウクライナ支援。孤立するロシ アは中国に応援を求める。ミサイルをぶっ放すやんちゃな北朝鮮も、中国をあ てにしている。いずれも国境を接している隣国同士なので、仮に異変が起こり 大量の難民が流入するのは避けたい最悪の事態だ。このロシアと北朝鮮と中国 の関係が、微妙な影を落としている。さらに、やっかいなのはアメリカと台湾 との関係から、台湾有事が絵空事ではなくなってきた。数年以内に必ず勃発す るという有識者の見解もある。2024年のアメリカ大統領選挙の行方も多いに関 係がある。トランプが返り咲くのか、民主党の次の指導者が出るのか、高齢の バイデンが再選されるのか。 ・いくら仲が悪くなっても、引っ越しができない隣人との付き合いはきちんと しないといけない。大企業であれ、中堅企業であれ、中小零細企業であれ、中 国とのビジネス、経済での付き合いは途方もないくらい大きい。アメリカとの 同盟関係は揺るがせないが、日本は日本の事情があり、そのバランスをうまく 取るのが政治と外交だろう。アメリカと中国の両大国の地政学的な背景も踏ま えた舵取りが必要だ。そうなると、日本国内では大きな方針を与党、野党で合 意しておかないといけない。経済が円滑に成り立っての政治体制だから、まず 有事に際しても平時に際しても、経済が回らないような仕組みを作ってはいけ ない。一方で牽制球を投げながら、バッターボックスのバッターにも対応しな いといけない。片方だけに肩入れすると、大きなしっぺ返しを食うことにな る。 ・台湾有事を含めて、あらゆるケースに備えておく必要がある。一時的に関係 が緊張状態になって揉めるケースはあり得るだろう。過去にも、多くの日中間 のトラブルはあったが、何とか反日感情、反中感情を抑え込み、なだめ透かし て付き合ってきた。某大手ショッピングセンターでは破壊が起こり略奪的な行 動まで起こったが、その後大人の解決を図り、見事に修正復活した。最終的に 隣人である関係は崩せないなら、お互いにエスカレートしないように、偶発的 なトラブルが起こらないように、日常を管理することだ。尖閣列島を含め、領 土に関しては毅然たる態度を取りながら、経済の円滑な関係は維持する。とき に綱渡りのような一触即発の関係にもなる可能性はあるが、そこは政治がこと を動かさないといけない。相手は専制国家だから、こちらの常識は通じない。 胆力の要る交渉に負けないことだ。