**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第944回配信分2022年05月30日発行 昨今の異常な物価高 〜悪いインフレにどう対応すればいいか〜 **************************************************** <はじめに> ・いやはや、最近のモノの値上げラッシュはすさまじい。ほとんど日常生活の あらゆるものの値段が高騰している。コンビニエンスストアに入っても、スー パーなどに行っても、どこもかしこも、特に食料品を中心にして値上げの嵐 だ。それも、日常生活に直結する必要欠くべからざる物資の価格が上がってい る。ぜいたく品の値段が上がるのはまだしも、富裕層であれ貧困層であれ、食 料品の値上がりは家計の悪化に直結する。特殊な要因の値上がりもあるだろう が、総じて昨今の世界情勢、異常天候、原油高、為替の円安など、庶民的な感 覚ではいかんともし難い要素が大きい。最も問題なのは、これらの物価高が給 与所得の増加と連動していないことだ。いい?インフレは、給与が上がること で消費者物価が連動して増加するという、経済の好循環から生まれるものだ。 ・しかし、賃金や給与は、さほど増加していない。特に、2年以上続いたコロ ナショックで多くの業界は傷んでいる。飲食、観光など、特に京都は観光産業 のウエートが高いので、まだほとんど挽回できていない。少し市内に観光バス の走るのが目立ち始め、修学旅行生の姿もちらほら散見できるようにはなっ た。金閣寺の駐車場にも車の列が出来、県外ナンバーの車が多く見受けられる ようにはなった。昼間の市バスにも、県外からの観光客が三々五々目立つよう にはなった。天井がオープンの市内観光バスが2台連れもって走っている姿 を、最近ようやく見かけるようになった。週末の飲食店の予約が取りにくく なった。そこかしこに、少し回復の兆しは見えてはいるが、以前ほどの賑わい を取り戻しているかといえば、まだそうではない。 ・葵祭も行列は中止になった。祇園祭も、山鉾の巡行はあるが、宵山の露店は どうなるか、まだ決まっていない。甲子園のスタンドも、多くの観客が詰めか け、イベントも徐々に始まってきた。地下鉄や市バスの車内の中吊り広告も、 以前は公共広告だけだったが、最近では民間のビジネスの広告が少し目立つよ うになっている。徐々に経済は以前の日常を取り戻しつつあるが、まだ入り口 のドアの前に立っている状態だ。中に入って、以前のような活動ができている かといえば、まだまだ遠い。特に、以前はインバウンドの観光客が多く京都市 内、京都府の観光地を闊歩していた。それをあてこんで、民泊施設が雨後の筍 のように、うじゃうじゃ林立していた。しかし、今ではほとんどが開店休業に 追い込まれ、事業の継続を断念した施設も多い。投資が裏目に出た。損切りを して、事業から撤退した人も数多くある。 <物価が上がる必然の理由> ・ウクライナの戦争の影響で、小麦の値段が上がった。必然的に、パンや菓 子、その他の関連の商品の値段が一斉に値上がりした。連動して、米粉も利用 されつつあり、この値段も上がっている。蕎麦やうどんの値段にも影響が大き い。立ち食いソバ、立ち食いうどんが、今なら一杯300円くらいかと思うが、 1,000円になる日もそう遠くないかもしれないくらい小麦を中心にした食品の 値上がりラッシュは続きそうだ。そのうち、ピザが食べられなくなる時代が来 るかもしれない。小麦の大産地は、アメリカ、カナダだが、ロシア、ウクライ ナでも全世界の3分の1の生産量があるという。そして収穫しても、物流の混 乱でコンテナの流通が途絶えており、ヨーロッパからアジアへの物資の輸送が 滞っているという。収穫できても、運べないことにはどうしようもない。 ・原油の値段も依然として高止まりしている。ウクライナの戦争の影響も大き く、ロシアからの原油の輸出が先細りになっている。西側諸国がソ連からのエ ネルギーの輸入をしなくなったために、西側でのエネルギー価格が高騰してい る。いまだに、ガソリンの値段は高い。成岡の利用する車がハイオクなので、 満タンで60リッター入れると1万円札が必要となる。以前は8000円くらいで済 んでいたと思うが、20%近い値上がりではお手上げだ。しかし、ガソリンも 減ったら給油するしかない。結局、公共交通機関で行くことにして、極力自動 車を使わない生活に切り替えている。いけるところは自転車で行くようにし た。しかし、これからの猛暑の時期を迎えると、いくらガソリンが高いからと いって遠方の仕事先にまで、暑い中自転車で行くわけにはいかない。努力にも 限界がある。 ・石油製品の値上がりも続いている。原油高の影響が大きいが、プラスチック 類、樹脂類などの製品が、軒並み値上がりしている。製造メーカも値上げしな いことにはやっていけないのだろうが、昨年値上げした製品を、また一方的に 値上げの通知が届く。顧客である企業や事業所には、つい先日も値上げのお願 いをしたばかりなのに、またぞろ値上げのお願いはしにくい。しかし、メーカ サイドから言わすと、これだけの原油高、エネルギー高になると少々の値上げ ではカバーできない。その先にある、卸売業の企業では仕入れ価格がこれだけ 上がると、次の顧客にはどうしても10%くらいの値上げをお願いしないと、以 前の価格のままでは、下手をすると赤字になる。利益が出る、出ないという話 しではなく、どうしても出荷価格を上げざるを得ない。そうなると、消費者に 商品が届く時点で相当のコストアップになっている。 <給料が先に上がらないといけない> ・物価の優等生と言われている「鶏卵」も値上げの様相だ。「鶏卵」がどうし て値上げの対象になるのか、よく分からなかった。しかし、よくよく説明を読 んだり聞いたりすると、育てるのに必要な「エサ」つまり飼料が高騰している のだと言う。この畜産を支えている飼料は大半が輸入飼料なのだ。人間が食べ るものだけを輸入しているのかと思えば、意外や意外、「エサ」の飼料まで輸 入しているのだ。これが円安で非常に飼料が高騰している。価格が上がったか らといって、飼料を減らすわけにはいかない。卵は多くの飲食店、ご家庭でも 必須の食材だが、これまで価格が上がると家計を直撃し、飲食店の経営を大き く圧迫する。円安の影響なので、誰を恨むわけにもいかない。ひたすらこのコ ストアップに耐えるしかない。しかし、いつまで我慢ができるだろうか。 ・日常生活のあらゆるものの価格が上がっている。これはまさにインフレとい う現象になるのだが、どうもその感じがない。なぜかと言えば、各自の収入、 給料、売上が増えていないからだ。古い話しで恐縮だが、成岡たちが若かった 昭和50年代は、先に給料が上がって、それに連動して物価が上がっていった。 昇給も毎年数%あって、それに連れもって多くのモノの値段が上がっていっ た。土地や株などが投資、投機の対象になり、モノの値段がどんどん上がるか ら、資産を持つことがいいことだと教えられた。みんなこぞって土地、株、ゴ ルフ場の会員権などを買って、すぐに値上がりが期待できたから、資産がどん どん増えていった。前月に買ったゴルフ場の会員権が、一晩で値上がりすると いう事象が起こった。極端になって、土地、株式のバブルがとうとうはじけた のが、平成2年前後だ。 ・各自の給料が上がり、それに伴って物価があがるのは、いいインフレ。今回 のように、各自の報酬もそうは上がっていない状態で、外部環境でモノのコス ト、価格が上がるのは悪いインフレ。いい、悪い、という言い方は少々違和感 があるが、いずれにせよこのコロナショック、ウクライナショック、円安、原 油高などの複合汚染であらゆるものの価格が上がっている。アメリカは好循環 の物価高になっており、給料も上がっている。金利を徐々に上げる方向になり つつあり、高金利の米国ドルにマネーが流れている。ますます日米の金利差が 大きくなり、円安の流れは止まらない。140円くらいになれば政府の介入があ るのだろうが、そこまでは、まだまだ円安の傾向が続くだろう。そうなると、 海外からの観光客を受け入れるチャンスでもあるが、まだそこまでの緩和はで きていない。 <信用があれば価格も通る> ・多分に不可抗力な面はあるが、コロナ規制の緩和が遅いことも、一因だろ う。まだ、半ば鎖国状態で海外からの観光客の入国も制限が厳しい。会食の人 数制限も徐々には緩和されつつあるが、まだ以前の水準に戻るには時間がかか る。マスクの着用も少しずつ緩くはなってはいるが、同調圧力は目に見えない 大きなプレッシャーを与えつつある。経済を回すことと、安全安心の状態を維 持することには、相当難しい判断はあるだろうが、これ以上のワクチン接種率 の向上を期待しても難しいだろう。打ちたくない人は一定以上存在するから、 接種率も今後大幅に改善するとは思えない。いきなり、扱いを5類に緩和する わけにはいかないが、現在の2類と5類の中間のような暫定措置を講ずるべき だろう。 ・このまま世界の動きに遅れ、取り残されると、まさに江戸時代の鎖国状態に なる。そうなると、他国の経済が回復するテンポと、日本の経済が回復するテ ンポとに、大きな齟齬が生まれる。必然的に給料は上がらず、経済の復旧が遅 れる。それより早いピッチで物価が上がり、国民経済は大きな痛手を被ること になる。原材料や主要なコストが上がっても、それが価格に転嫁できるビジネ スモデルを構築しないといけない。コストアップを吸収して、最終製品の価格 を上げて、きちんと収益が確保できるような付加価値のある製品作りを日ごろ からしておかないといけない。実態として、値上げが通らないということは、 逆に言えば自社の扱っている製品や商品に、それだけ認められる付加価値がな いことになる。同じものなら、1円でも安いところから買うのが普通だから。 ・京都という土地柄は、少々不思議な土地で、値段が安いからといって安い方 からばかりものを買うという習慣が薄い。少し高くても、ブランド、歴史など があり、より品質のレベルが高いなら、少々末端価格が高くても、消費者は納 得している面がある。なにより、そのお店、企業の信用、信頼が絶大でないと いけない。また、その信用が継続していないといけない。怖いのは、代々お取 引いただいている企業とは、いったん何か粗相があると完全にお出入り禁止に なる。値段が安いから付き合っているのではない。信用があるから継続してお 取引があるのだ。その信用があれば、少々の値上げやコストアップは納得して もらえるはずだ。その理由に妥当性があり、説明がきちんと筋が通っていれ ば、当然このご時世でコストが高くなるのは理解できる範疇だ。そのような、 信用、信頼に基づくビジネスモデルを日ごろから作っておくことが大事だ。