**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第926回配信分2022年01月24日発行 戦時には戦時の戦い方がある 〜着眼大局、着手小局、臨機応変〜 **************************************************** <はじめに> ・京都府にも蔓延防止が適用されようとしている。飲食店がやり玉に挙がって いるが、果たしてそうか。営業時間の短縮やアルコールの提供ばかりに議論が 集中し、肝心の基本的なことの対応が忘れられていないか。基本的な対応と は、ご存じのようにこのコロナウィルスを第2類の感染症に位置づけるか、あ るいは第5類に位置づけるかの根本的な認識の問題だ。第2類のままだと、感 染症扱いになるので保健所主導で感染対策を行う。一方で、従来のインフルエ ンザと同じ扱いの第5類にすれば、保健所の管轄から離れて医療現場の管轄に なる。そうなると、俄然扱いのポテンシャルが変わってくる。いま、毎年冬に 流行するインフルエンザには、ほとんどの人が関心を持たない。どこで、どれ だけの患者が出ているか、ほとんどの人は知らない。 ・知らいないでも支障はない。かなり熱があり、喉が痛く、何やら風邪っぽ い。普通の風邪にしては結構熱が高く、関節の節々が痛い。かかりつけの開業 医で診てもらったら、いま流行りのインフルエンザだった。処方箋を書いても らって、調剤薬局でよく効く薬をもらって、数日はおとなしくしていたら、い つの間にか治った。このような状態がインフルエンザの特徴だ。高熱はいやだ から、高齢の方は事前にインフルエンザワクチンを有料で注射してもらう。筆 者も、昨年の年末にはかかりつけの同級生がやっているクリニックで、インフ ルエンザワクチンの注射を数年ぶりで打ってもらった。このような状態になれ ば、今回のコロナウィルスも、ただの人になる。早くそのようになって欲しい ものだ。保健所の業務パンクもなくなる。 ・現在の議論では、第5類にするには、まだ危険が伴う。そこで第2類のまま でいいという人と、やはり第2類ではもう今後保健所機能が維持できないと、 第5類への移行を積極的に支持する層に分かれる。現在は、どちらのスタンス もリスクがある。そこで、第2類と第5類の中間的な存在の第3.5類などとい うステージを特例で作ってはどうか。右か、左か、いいか、悪いか、という二 者択一ではなく、過渡的に中間的な扱いを行う。そして、状況や様子を見て、 第5類に移行する可能性やリスク評価を行う。まず、中間的なステージを仮設 定し、しばらく運用してみる。その出た結果を踏まえて、第5類に移行するに はどのような対策が必要かを検討し、準備する。何も難しいことはない。日ご ろ、企業での事業活動では、当たり前にやっていることだ。 <戦時の戦い方> ・官公庁ではこのような臨機応変というのは、苦手のようだ。何事も、あとで とやかく言われると困るので、慎重にも慎重を期して行う。日本人は基本的に 真面目だから、余計に最大限の防御線を張る。ところが、ヨーロッパやアメリ カ、特に中国ではがちがちに固めないで、まずはやってみるという選択肢を採 用することが多い。ビジネスは試行錯誤の連続だから、やってみて得られる知 見を次のステップで活かそうとすればいい。一党独裁の国家と比較するのは難 しいが、しかし戦時には戦時なりの戦い方があるだろう。なんでも下から議論 を積み上げて、時間をかけて検討し、あらゆるシュミレーションを行ってよう やく結論に至る。しかし、その時はすでに時期を逸している場合が多い。PDCA もタイミングが大事だ。 ・資金もそうだ。おカネは必要な時に必要なだけあればいい。不要の時にたく さんあっても困るし、必要な時には必要な額よりも少し多い目にないといけな い。この資金の調達や投資が非常に難しい。金融機関が貸してくれるから、ど んどん借りて、気が付けば年商以上の借入になっている企業がなんと多いこと か。資金は必要だが、年商以上の借入は首が回らなくなることが多い。売上が 1億円の企業で、借入が1億円あり、10年で返済するなら、減価償却を無視す れば売上高利益率は10%以上ないと返済原資が捻出できない。これくらいの理 屈は小学生の高学年の子供でもわかることだが、事業を営んでいるとなぜかこ の簡単な理屈がわからなくなる。特に、運転資金で過剰債務になっていると返 済の見通しが立ちにくい。 ・確かにこれくらい急激に感染者が増えたということは、市中には無症状、無 自覚の人も相当数いると思わないといけない。確率的にはそうなるだろう。私 立の大学が入試シーズンに入り少し通勤の地下鉄には学生の姿が減ってはきた が、それでも朝夕の通勤時間帯はかなりの混雑だ。地下鉄で隣に立っている若 い人が無症状の感染者ということは、十分あり得る。その人が悪いわけではな い。無症状だし、無自覚だから、わからない。免疫力が高いと、ウィルスが体 内に入ってもその免疫力でやっつける。ところが、既往症のある人や何らかの 理由でそのときに免疫力が低下している人、高齢者でそもそも免疫力が落ちて いる人などは、ウィルスが入ってくると抵抗力が弱いから感染してしまう。そ して、すぐに症状が出る。 <近似値を見つける> ・確かに、臨機応変は難しいこともある。前提条件が急に変わると、対応でき ない場合も出てくるだろう。しかし、100%を目指すより70%くらい正しいと 思えたら、そちらに舵を切ることも必要だ。ビジネスの実際の現場では、70% よりもっと低い確率でスタートする事業もある。今回のコロナ対策は、こと人 命にかかわるだけにそう簡単なことではないのはわかるが、従来からの仕組み や制度では対応できないなら、臨機応変に変えるべきだ。国と自治体との権限 の境界線や、保健衛生と医療との境界線など、難しい線引きはあるだろう。し かし、そういう複雑な方程式をひもといて、近似値でいいから答えを見つけて いくのが政治のミッションではないか。利害の相異なる諸課題を解決するのが 本当だろう。経営も同じだ。 ・部分最適を優先すると、全体最適が疎かになる。全体最適をあまり優先する と、各パーツが大きく傷んでしまう。頃合いというものがある。相性という定 量的にできない要素もある。とにかく機械ではなく、人間がやることだから、 不確定な要素があり、想定外のことも頻繁に起こる。しかし、それに機敏に、 果敢に対処しないといけない。それをするのがリーダーの仕事だし、特権だ。 その難しい判断を楽しんでするくらいの度量が要る。リスクを取るのを怖がっ ていては、何も進まない。勇気をもって進む場合と、勇気をもって退く場合が ある。なにも、いつも元気で突進するのがいいのではない。火事場に飛び込ん だら火傷するのがわかっているなら、飛び込んではいけない。しかし、大事な ものが残っているなら、飛び込まないといけない。 ・決断もしないといけない。今回のコロナ禍の事案もそうだが、科学的知見に 基づき、最後は人間が判断する。決してAIがするものではない。意思決定する までの大量のデータを集めて、分析して、解析して、材料を提供する。それは AIが得意とするところだ。その提供された多くのデータから、結論を導き決断 を下すのはリーダーの役割だ。どうもこの辺が昨今見ていると、曖昧模糊とし ている。以前は結構登場人物が特定されていた。いい、悪いは別にして、担当 責任者が明確だった。昨今はその辺りが曖昧だ。適当なところまで決めておい て、一番現場に近い判断は違うところにボールを投げる。投げられたほうは、 そこから先はそちらの責任ですよと言われても、正直困る。思惑が入り乱れる と、出口が違うところに行ってしまう。 <着眼大局、着手小局> ・これが民間企業なら、比較的わかりやすい。どんなことでも最後は経営者の 責任だ。従業員がした不始末も、判断のミスも、交通事故も、すべてトップの 責任になる。そして、業績の如何によってはトップの交代劇がある。政治家も 選挙という試練はあるが、どうも選挙の過程で別の判断が入るので、純粋に結 果で選ばれているのではないと感じる。筆者もいくつかの公的な機関の大きな 会議のメンバーになったことも幾度もあったが、おおよそ最初から結論が出て いる場合が多い。その事務局が用意した結論を追認することになりがちだ。形 式上、多くの外部の第三者の意見を聴取したうえでの結論としたいというのが 本音だろう。コンペなどの審査会では複数の審査員の印象と評価が必ず異なる から、これは終了後の審査会で結構まともな議論になることが多い。しかし、 そういう場合は比較的少ない。 ・民間企業の取締役会も、多く出席するが大きくは2つのパターンに分かれ る。結論が決まって追認型と、まともな議論型と、両方ある。あまり事前の準 備なしに、まともなパンチの打ち合いのような役員会もある。一度、立派な会 社のそういう会議に参加させてもらったが、代表者は会議中目をつぶって一言 も発しない。約2時間近い討議の過程を黙って聞いていて、最後の最後に担当 の役員にひとつだけ辛辣な質問をした。その質問に対し、担当役員も真剣に答 え、その答えを聞いて、しばし沈黙のあと、おもむろに代表者は初めて口を開 いて自分の結論を簡潔に述べた。そして、その判断の理由もきちんと説明し た。結論は事業の撤退だったが、全員納得した様子だった。非常にいい経験を した会議だった。 ・なんによらず、何かを決めれば、多くの人に相反する利害が発生するのは止 むを得ないことだ。その利害を最小限にしようとするのだが、そうは簡単にい かない。大きな被害を受ける人もいれば、かすり傷で済む人もいる。全員が丸 く収まる結論などない。誰がリスクを取るのかも関係してくる。全員が賛成す ることがいいとは限らない。多少、天邪鬼だが賛成者の多い結論と敢えて逆を 決める経営者もいらっしゃる。全員が賛成とは気持ちが悪い。何か落とし穴が ありそうだ。また、みんな安全なほうの結論になりがちだ。大きなリスクを取 る案に賛成する人は少ない。また、自分に担当の責任が降りかかるのもいや だ。戦時の意思決定は難しいが、大局を見て判断することが大事だ。着眼大 局、着手小局。これが戦時の基本だ。