**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第916回配信分2021年11月15日発行 少し見えてきた出口のイメージ 〜進むか、止めるか、決めどきがやってきた〜 **************************************************** <はじめに> ・先日、お馴染みの飲食店に行ってみた。以前は18時入り、20時お開きという 2時間だったが、アルコールも解禁になり、営業時間も延びたので、どうして いるだろうかと覗いてみた。土曜日の19時に予約したが、カウンターが一杯と 言うことでテーブル席になった。カウンターは個室のテーブル席からは良く見 えなかったが、一杯と言うことだったので、さぞかし多くのお客さんが入って いるのだろうと、正直安心した。ときどき、ご主人が料理を個室に運んでくれ たので、その都度短い会話ができた。10月以降の商売の様子を聞いてみたが、 想像以上に厳しい状況だということが明らかになった。10月の解除以降、お客 さんが相当戻って来ているとの新聞やTVの報道があったからだ。それを確かめ たかった。 ・今年の春からの状況は惨憺たるものだったようだ。モチベーションを切らさ ないように、お昼とテイクアウトだけは営業していたものの、売上的には微々 たるものだった。一時期お店を閉めることも考えたが、やはり仕入業者さんや 取引先のことを考えると、自分の店の都合だけで完全に閉めるという選択肢は なかったようだ。お昼のお客さんも本当にまばらだった。立地がビジネス街で もないので、特にランチのお客さんが多い場所でもない。むしろ、遠方からわ ざわざ少々高めのランチを食べにくる女性客が多い店だ。テイクアウトはお弁 当系だが、近くの商店や近隣の人が買っていく程度の数しか出ない。実際には 閉店して、多額の補償金をもらうという選択肢もあったようだが、敢えてそれ はしなかった。 ・それでも店を開け続けたが、お客さんがゼロという日がひと月に半分くらい あったそうだ。流石に滅入ってこの先どうなるのだろうかと不安で不安で仕方 なかった。お客さんは予約しか読めないので、仕入ができない。もちろん数組 の予約があれば一定の仕入れもできるが、予約が一定数ないと生鮮素材の仕入 れができない。野菜より鮮魚の仕入れが難しく、冷凍にしてはどうしても味が 落ちる。そこそこの金額の店なので、お客さんも口が肥えている。単純な居酒 屋ではなく、料理店であり、ご主人は京都では著名なお店で修業して独立し た。まだ若いが、腕は確かで一定のファンが付いている。特に自由業のお客さ んが多いようだ。そういう店なので、お客さんが来ないから閉めるという選択 肢はなかった。 <続けて欲しい馴染みの店> ・お客さんが来ないと閉店の時間が早くなる。2階に住居があり、子供さんも まだ小学校だ。夜に以前は子供と顔を合わすことは稀だった。それが、お客さ んがゼロの日は早く店じまいする。そうなると早めの時間から子供と過ごすこ とになる。子供も敏感にお店の状況がわかるようで、今日もお客さんは来ない のと言われて、本当に辛かったと言っていた。ようやく少しは客足も戻ってき たが、それでも平日はまだまだだそうだ。先日お店に行った土曜日などは、よ うやく満席になったという。満席になったらいいですねと言ったら、満席と言 うのは以前の7割くらいなのだ。カウンターも例えば10席あっても、間を開け ないといけないので、どうしても空席を作らないといけない。結局7割しか入 れない。 ・借入の状況や赤字の状態を聞くのは、流石に気が引けたので突っ込んでは聞 かなかったが、開店してまだ数年しか経過していないので、開店資金の返済も まだあるだろう。さらにゼロゼロ融資を受けていたら、何とか手元の資金でつ ながってはいるが、赤字の補填にしか過ぎない。今の状態なら、手元の現金は 次第に減っていき、いずれ運転資金は枯渇する。おそらく、自分たちの貯金を 取り崩して補てんするつもりだろう。まだ若いから住宅ローンも残っているか もしれない。奥さんは、一緒にお店で働いているので給料はおそらく取れな い。本人を含めた収入は、当分ほとんどないと覚悟しているのだろう。そのよ うな事業者は多いはずだ。事業主への給料は払ったことにして、未払いで計上 する。 ・この未払いの給料の収入は、おそらく未来永劫に払われることはないだろ う。いったんその分は減ったままで持ち越すしかない。それでもお店を続けて いくのは、まずこの仕事がとことん好きなのだ。料理を作ってお客さんに提供 し、喜んでもらうことがすべてなのだ。赤字、黒字もあるが、自分にはそれし かないし、それが人生のすべてだと賭けている。そんな人が、どうして店を閉 めるという選択ができようか。まだ若いというのもあるが、とにかく何とかこ の困難を乗り越えるという決意が感じられた。どうあっても続けるとの、堅い 強いメッセージが感じられた。こういう事業者だと、応援してあげようという 気持ちに自然になるものだ。頻繁には行けない店なので、応援すると言っても そんなに足繁く行けないが、こういう店は本当に何とかして続けて欲しいもの だ。 <今後の方針を決める> ・GoToキャンペーンもおそらく何らかの方法で、再開するだろう。観光振興に は非常に効果が大きいと思われるが、高級宿泊施設に客が集中することだけは 避けるような方策を取って欲しい。割引率が大きいと、滅多にいけないような 高級施設にお客さんが集中するのは、人間の心情としてよくわかる。そうなる と、大企業が潤って本来の救済対象の中小零細企業におカネが回らない。補給 金や補助金は、必要なところに的確にピンポイントで落ちるような仕組みにし ないといけない。政府と地方自治体との連携が欠かせないのと、個々の事業者 の財務状態を的確に把握できる仕組みや仕掛けがないとできない。マイナン バーに始まって、多くのデータがまだアナログであり、自治体任せであり、系 統的に把握できていない。 ・今月号の弊社の機関誌の記事に、デジタル先進国のデンマークの事例を紹介 しているが、これら先進国では随分以前からペーパレス社会の実現に動いてい る。大国に囲まれたEUの小国であるデンマークが、かくもすごいデジタル先進 国になった経過を日本はもっと勉強すべきだ。確かに、その過程ではいろいろ な困難があっただろう。しかし、リーダーの強い意志で乗り越えるという揺る がない信念が政治家にあった。翻って我が日本国ではデジタル担当大臣も今回 変わった。本当に政治家でデジタル分野に精通している専門家はいないだろ う。こういうときにこそ、民間人を抜擢したり年齢や経験を踏まえて若手を重 用するべきだ。政治的な背景や派閥の力学など関係ない人事、人選をする。台 湾のように実力本位で選ばないといけない。 ・政策を実行するときに、いかに現場の意見を取り入れるか、活かすかは大き なポイントだ。現場の人は、感覚で好き勝手にものを言うから、いちいち全部 取り合っていたら政策にならないというのが官僚側の理屈なのだ。それはそれ で正しい。感覚的なもの言いのなかから、いかに隠された真実を拾い出すかが 重要なのだ。民主主義のように、声が多いことが正しいとは限らない。むし ろ、多少天邪鬼だが反対意見の多いほうが現実を踏まえていることが多い。そ このバランス感覚が非常に重要で、これは事業運営を経験した人でないと分か らない。真実は現場にあるが、その真実を見える範囲からいかにあぶりだす か。その感覚を持ち得ている人がトップにならないと、方針は都度迷走する。 <続けるならここは我慢> ・戻って、馴染みの飲食店はこのまま営業を続けられるだろうか。第6波が来 れば、おそらくこのままの状態で営業を続けるのは難しいだろう。第6波が来 ないことを祈るが、先日の日経新聞の記事にあるように、この昨今の感染者の 激減状態はどう考えても説明がつかない。原因や理由が分からない現象は、再 び起こることはよくある。原因が分かれば対策の打ちようもあるが、原因が分 からないと対策の打ちようがない。仮に、この飲食店が資金繰りで立ちいかな くなったとしたら、どのような支援策があるのだろうか。もう、これ以上の雇 用調整助成金は出ないとすると、人件費の補填も難しい。どう考えても、追加 の臨時融資を受けるしかない。しかし、今後の事業の見通しが立たない。過去 からの多くの借入もある。 ・昨年のような多額の持続化給付金はもうない。あとは金融機関からのつなぎ 資金の融資に依存するしかない。国民政策金融公庫か民間金融機関かは別にし ても、とりあえず不足の運転資金を補給してもらうしかない。しかし、融資は あくまでも融資であり、融資の反対語は返済だ。返済が必要ないならいざしら ず、そんなことはあり得ないから、数年後に始まる返済に向けて自社のビジネ スモデルが変えられるか。しかし、この飲食店では実際には難しいだろう。で きるとすれば、材料費を極力節減するか、わずかの固定費を節減できるか、だ ろう。おそらく計算しても、そんなに多くのおカネが生まれてくるとは思えな い。材料費を節減すると、確実に提供する料理の質が落ちる。口の肥えたお客 さんはすぐに分かるから、これはなかなか難しい。 ・結局、我慢に我慢を重ねて、少しでも景気が回復するのを待つしかない。そ こまで返済開始を延ばしてもらうしかない。売上の増加が急に見込めるもので もない。テイクアウトは止めて、シェフの出張サービスと言うビジネスもある が、そう知名度が高くない店のシェフの出張サービスが売上の落ち込みをカ バーできるものでもない。結局、現在のビジネス形態を粛々と続けるしかな い。実は、このような事業者が大半ではなかろうか。これらの事業者への支援 策は難しい。給付金をばらまくというのも、今後に向けて意味があるのか。少 しでも売上を伸ばす努力に対し、何らかの給付金や補助金をハードルを低くし て申請してもらい、交付する。そして、あとは事業者の努力に賭けるしかな い。それで生き残れる事業者は生き残れるし、生き残れないならどういう方策 があるのかを真剣に検討する。その時期に来ている。