**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第782回配信分2019年04月22日発行 京都の老舗の家憲や家訓から学ぶシリーズ:第8回 和合と店則 **************************************************** <はじめに> ・京都の老舗家訓シリーズの第8回は「和合」。「和合」とは、兄弟親戚一同 仲良く経営に当たれという意味だ。古い民法では、家督すなわち一家の全財産 と商売のすべてを長男が引き継ぐことになっていた。長男が総取りのルール だった。そういう時代だったので、他の兄弟には一円も、一銭も財産が行かな い。そのかわり、長男はすべての責任を負って、家と会社、お店の経営に全身 全霊を傾けて当たるのだ。もし、仮に長男の出来が悪いと、非常にまずいこと になる。その代々続いてきたお店が傾くことにもなりかねない。 ・矢谷家の家訓には、その第1条において「家の主人たる者は家人の見習うと ころなれば、先其身を正しく慎みて、家内を善に導くべし。親子、兄弟、夫婦 の仲睦まじく、家人は出入りの者を憐れみ、恵み、仮初にも怒り、罵詈事なか れ」とある。主人の心得として、身をつつしみ、一家を善導すること。親子、 兄弟、夫婦の間は仲睦まじく暮らすこと。というように、まず商売がうまくい くためには、一族間での「和合」つまり仲良くお店を運営することを提唱して いる。当然と言えば当然なのだが、やはり諍いが多かったのだろう。 ・一族間でも、特に難しいのは兄弟だろう。親子は上限関係だが、兄弟は横一 線だ。特に年齢があまり離れていない兄弟の場合、もめごとに発展するケース が多い。幼少の頃の2歳や3歳違いは大きいが、成人になって20歳を越えれ ば、2、3歳の年齢の違いなど誤差の範囲内だ。また、兄弟では性格が異なる ことが多い。お兄ちゃんが賢く、頭がいいけど、性格はどちらかというと陰気 であるのに対し、弟はそんなに頭は良くないが、性格は明るく、商売に向いて いる。そういう兄弟が、同じ会社でうまくやるのは結構難しい。 <古来争いごとは兄弟> ・古来日本国では、鎌倉初期の武士の時代から戦争と言えば、兄弟間の争いご とが多かった。保元平治の乱もそうだったし、その後の歴史において兄弟間の 揉め事から戦争に発展したケースは、枚挙にいとまない。それくらい、兄弟と 言うのは、いったんうまくいかないと、とことん争いごとに発展してしまう。 3人以上の兄弟になると、数から2対1になり、数的優位が形成されるので、 意外と収まることも多い。これが2人のみだと、対立したままずっと引きず る。誰も仲裁に参加できないまま、最後まで行ってしまう。 ・弟が大学を出てすぐに会社に入り、長い間先代の父親社長の下で研鑽に励 み、社内でも評判良く、もう役員になっている。営業部門を任され、人望もあ る。兄は大学を卒業して全く別の業界の会社に就職した。もう実家の商売とは 縁遠いと誰もが思っていたのに、その会社が突然のリストラになり、希望退職 願いを出して増額の退職金を受取り、退職した。そこで実家の父親に頼み込ん で会社に転職することになった。もう関係ないと思っていた実兄が、突然会社 に入ることになった。しかも、父親は役員の弟に無断で決めた。 ・こういう最初のボタンの掛け違いが、後に禍根を残す。おそらく、弟は打診 があったら断っただろう。自分が頑張って来て、社内の人望も得て、近い将来 自分が承継し社長になるものだと思っていたところに、突然兄貴が帰ってくる という。それも事前の相談も何もなく。不安になり、疑心暗鬼になり、気分的 にすぐれない。どうしても納得できない。父親の社長は、どうして事前に言っ てくれなかったのだろう。兄を社長にするつもりで呼び返したのか。いろいろ と妄想、幻想を抱いて社業に身が入らない。 <兄弟経営でうまくいく企業は少ない> ・兄弟間の和合がうまくいかなかったケースは、山ほどある。地元京都では、 少々古い話しだが、某帆布屋さんでの兄弟の相続に絡んだ争いがあった。銀行 を退職した兄が、会社に戻る際に相続の問題でクレームをつけ、大騒動に発展 した。最近では、大塚家具の親子兄弟喧嘩が話題になった。兄弟経営でうまく いっている企業は、例えばアイリスオオヤマ。4人兄弟の役割分担が明確で、 非常に素晴らしい業績を挙げている。しかし、ここでも後継者は長男の子息が なるという。他の兄弟の子息は対象になっていない。 ・高知出身の4人兄弟が創業した、カシオ。高知は製造業の少ない県で、大学 を卒業した地元の学生は、ほとんど県外に就職する。そんな高知県で、地元で は数少ない製造業。カイソワールドクラシックというゴルフの公式大会が開か れるのも、地元高知県。樫尾4兄弟は、実にうまく会社を立ち上げ、成長軌道 に乗せ、デジタル化の波に乗り、成長発展を遂げた。やはり、長兄の強力な リーダーシップのもと、他の3名の兄弟が力を合わせて頑張った。役割分担が 明確で、みんなが長兄を尊敬している。 ・親子はまだ同じ家に住むこともあるだろうが、兄弟が同居することは珍し い。会社で仕事をしている時間は共有されているが、いったん会社を離れたら 全くの別。そこはプライバシーもあるし、個人の私生活にいくら長兄だからと いって、ずけずけ入ることは難しい。お互いに我慢があり、そこに触れると大 爆発する可能性もある。家族を巻きこんで、骨肉の争いに発展する可能性があ る。いったん兄弟で溝ができると、なかなか修復は難しい。誰かが仲裁役を 買って出ないと、現状のままではうまく行かない。 <同族一族では和合が大事> ・同族経営がいまだにデファクトスタンダードである日本の中小企業。親族一 族への承継が約半分を占める中、どうすれば一族同族でうまくやれるだろう か。まず、基本中の基本は相互のコミュニケーションだろう。細かいことでも 子細に報告し、頻繁に顔を見て意思疎通を図る。アイリスオーヤマの4兄弟 は、特に何もない限り毎日ランチを一緒にするという。他愛のない会話でもい いので、相手の顔を見て会話をして言葉を交わすことが大事だ。なにも堅い会 社の話題でなくてもいい。前日の日曜日に行ったゴルフの話題でもいい。 ・役割分担を明確にすることも大切だ。中小企業では明確にすることは難しい こともあるが、おおよそでもいいから責任範囲を明確にする。例えば、数字に 関する部分は誰それが責任を持つ、製造に関する領域は次男が責任を持つ、営 業に関する仕事は3男が責任を持つ、などなど。重なったり、かぶったりする 領域もあるが、それはいい。誰もが気が付かずに、ポテンヒットになるのが、 一番まずい。特に長兄は担当の分野を持たずに、各自の成果や行動の報告を受 けて、大きな経営判断をすればいい。 ・同族一族の中小企業にとって、この「和合」というテーマは非常に大事であ り、貴重な存在である。やはり良好な人間関係から、いい仕事が生まれ期待さ れた結果に限りなく近づくだろう。妙な疑心暗鬼が起こると、そのことに時間 を取られ本業の核心部分に力が入らない。そうなると、社業が徐々に毀損して いつかは競合に追い抜かれる。また、従業員はよく見ている。社長とその一族 の「和合」図られていないことは、すぐに従業員は見抜いている。いずれ優秀 な従業員が逃げていく。すべては一族の「和合」が図られているかどうかだ。