**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第755回配信分2018年10月15日発行 これからの中小企業経営の重要課題 事業計画を作成する:その4 〜事業領域を定義する〜 **************************************************** <はじめに> ・未来の予測はあくまでも仮説だが、一応現時点ではこうなるだろうと仮に考 える。その未来の方向と自社の強み、弱みを掛け合わせて(これを業界用語で はクロス分析というのだが)、将来自社が取り組む事業の領域(これを業界用 語では事業ドメインという)を決定する。この作業が最も重要な作業であり、 ここを誤ると、自社の将来進むべき道が間違ってしまう。非常に重要な工程な のだが、未来はあくまでも仮説であり、必ずそうなるとは限らない。間違った ら、すぐに修正できる方策も必要になる。 ・時間をかけて自社の経営資源を棚卸し、社会の将来の方向を検討して、その 重なるところを重点的に攻める。そこに自社の経営資源を集中的に投入する。 これがオーソドックスなやり方であり、経営資源の乏しい中小企業では、広く 事業領域を定めて事業を行うことはできないから、どこかにある程度絞り込ま ないといけない。人、モノ、カネの経営資源は有り余るほどあることはないか ら、どこかに尖って投資しないといけない。投資をしてもすぐに事業がうまく いくとは限らないから、時間がかかることも想定しておく。 ・この事業領域は、何もすべてが新しいわけではない。現在取り組んでいる事 業領域の延長でも構わない。また、少し異なる分野、異なる市場というのがよ くあるケースだ。従来全く取り組んだことがないという事業領域に新しく進出 する企業もあるが、よほど覚悟してかからないと、未知の事業領域の場合はリ スクも大きい。現在営んでいる事業領域をそのまま踏襲する場合は、過去のや り方、方法ではいつかは手詰まりになる。そうならないように、時代が変われ ば事業も変わらないといけない。 <3つの柱を立てる> ・よく言われるのは、ひとつの事業だけで自社をすべて支えるのは難しい。将 来のことも考えて、中核になる事業を最低3つ用意する。1つ目は現在の稼ぎ をキープできる事業だ。この事業で稼いでいる間に次の稼げる事業を軌道に乗 せる。この次の稼げる事業も準備しておかないといけない。2つ目はこの次に 稼げる事業を準備しておくこと。3つ目はこれから成長する可能性の高い将来 に向けた事業だ。この3つをうまく一定の期間で回せるようにサイクルを組む ことだ。3年ごと、5年ごとでもいい。 ・三重県の某中堅の飲食事業の企業は、代表者1代の30年間で1つの事業を完 成させるというミッションを果たすという。この企業は現在5代目の代表者が 社長を務め、創業者以来今まで4つの大きな事業を打ち立ててきた。現在の5 代目の社長はまだ途中ではあるが、さらに1つの柱になる事業を既に立ち上 げ、ほぼ軌道に乗せつつある。大事なことは、初代からずっと立ち上げた柱に なっている事業は100年を超えても、まだすべて継続している。この企業はそ ういう意味で柱が4つあり、5つ目がゴール間近だ。 ・そうかと思えば京都の某金属加工の企業は、既に100年以上の歴史がある が、祖業とは全く縁もゆかりもない事業を営んでいる。現在の事業を創業者が 見たら、腰を抜かすであろうくらい、関係がほとんどない。全くないわけでは ないが、外見上まるで違う製品を製造し、それが立派に社会に貢献している。 ひとつのことにあまり拘らず、しなやかに世の中の変化や動きに合わせて、機 動的に事業を変えていく。言うのは簡単だが、これも至難の業だ。しかし、変 化が激しい業界なのでこの対応力が企業の強みなのだ。 <新しいことが必ずしも成功するとは限らない> ・やっていることは外から見ればあまり変化がないように思えるが、したたか に市場を少し変えて成長している企業もある。市場を少し変えると提供する商 品やサービスも少しは変えないといけない。それをどれくらい、どう変えるの かが試行錯誤の連続になる。大きく変えすぎて失敗したケースもあれば、時代 が早すぎて受入れられなかった事業もある。成岡も以前に在籍していた出版社 で、満を持して出した大型企画が空振りに終わり、非常に痛い目にあったこと もある。少しだけ時代が早かった。 ・それは救急医療の企画で、当時救急車に乗車する消防士は救急医療行為はほ とんどできなかった。今でこそ、救急救命士という資格があり社会で活躍して いるが、当時の救急医療はすべて医者の指示がないとできなかった。しかし現 場では待ったなしの緊急事態であり、早晩徐々に現場での救急医療が部分的に 開放されるとの考えが大勢だった。そこで満を持して大型企画を上梓したのだ が、法律や制度が未整備で少し時代が早かった。かくて失敗企画に終わり、大 きな在庫の山を積み上げた。猛烈に批判を浴びた。 ・あと少し時計が進めば、どんぴしゃりの企画だったと思われるが、残念なこ とにこの企画は失敗に終わった。このようにすべての新しいことが成功すると は限らない。もうひとつの柱を作ろうと新分野に果敢にチャレンジしたのだ が、ことはそう甘くはなかった。自分では自信があったのだが、どうも社会の 世間の評価は厳しかった。しかし、この失敗が次の大型企画の成功につながる のだから、ビジネスは難しい。成功と失敗は紙一重と言う名言もある。何が成 功で、何が失敗なのか。そこを見極めることが大事だ。 <未来を考えるのは自分の責務> ・事業領域を定義すると書いたが、ことはそう簡単ではない。試行錯誤を繰り 返しながら、次第に見えてくるものがある。市場を少し変えるとか、製品商品 サービスを少し変えるとか、書けば簡単だが現実は先にも書いたように、そう 甘いものではない。大事なことは、必ずやってみせる、やり遂げるという執念 だろう。多分にメンタルで精神論だが、その執念がないと必ずと言っていいほ ど、途中で挫折する。なんとか、もうひとつの柱を立てたい、立てたいと念じ ることで花開くのだろう。 ・心の中で念じるだけでは成功しない。それを文字に書いたり、口に出して外 でしゃべったりしないと、頭の中に刷り込まれない。いつも考えて、考えて、 それでもなかなか形にならない。しかし、最後までやり遂げるという執念があ れば、いつか何らかの形で具体的になってくる。ふとしたきっかけで、神様が ヒントをくださる。偶然の出会いを提供してくださる。その時に、ああこれだ と感じないといけない。日頃から準備をしておかないと、せっかく神様がプレ ゼントをしてくれているのに、気が付かない。 ・外部環境を観察し、今後の動向を推し量る。そして、自社の過去からの強み を分析し、将来においてそれが強みであるのかを検討する。そして、社会の流 れと自社の将来の強みを重ね合わせたところに新しいチャレンジする事業領域 が見えてくる。24時間365日考えていると、ときに出口がぼんやりと現れる。 そのときのために、人、モノ、カネを準備しておくことだ。その時になってか ら、慌てても遅い。雑事に終われていたり、資金繰りで奔走しているようで は、とてもおぼつかない。将来のことを考えるのは、自分しかいないと肝に銘 じることだ。