**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第753回配信分2018年10月01日発行 これからの中小企業経営の重要課題 事業計画を作成する:その2 〜自社の経営資源の棚卸しをする際のポイント〜 **************************************************** <はじめに> ・事業計画作成の第2ステップは、外部の事業環境の分析をしつつ、同時に社 内の経営資源の棚卸しをする。この社内経営資源の棚卸しは、非常に重要な要 素で大きなポイントを見落としたり、錯覚したりすると3年後、5年後の自社 の経営方針に大きな影響を与える。もっとも、経営とは生き物だから、棚卸し をした結果が未来永劫に正しいという保証は何もない。いや、未来はどんどん 変わるから、いまやった棚卸しの評価が、明日、来月、来年生きているという 保証はどこにもない。 ・この自社の経営資源の棚卸しの作業では、重要な要素がいくつかある。これ を落とさないようにして、慎重にかつ大胆にことに当たらないといけない。ま ず、誰をメンバーに選ぶかという点だ。企業の規模やいろいろな条件にもよる が、必ず入って欲しいのは経営陣と後継者、経営幹部だ。特に、入れ替わり立 ち替わり幹部の出入りの激しい企業では、なおさら新しい幹部社員の参加は欠 かせない。人数にもよるが、マネジャー、リーダークラスの社員が入ってもい い。問題は、経営トップだ。 ・成岡の私見だが、経営トップの参加はしないほうがいい。業歴や業態にもよ るが、未来の方向を検討するのだから、未来を担う人材は積極的に参加するべ きだが、過去を担ってきたメンバーはなるべく遠慮して欲しい。オブザーバー で横から眺めていただくのは全然問題ないが、自分がメンバーの一人として積 極的に参画しないほうがいい。特に、カリスマ的な経営者の場合、トップが しゃべり出すと誰も遠慮して発言しなくなる。また、トップの前でこんな発言 をしていいのだろうかと、疑心暗鬼になる。 <トップは聞き役に徹する> ・規模や業歴、業態からして、どうしてもトップの参加が欠かせないなら、は るべく我慢して発言を控えてもらうようにしている。できる限り、普段なかな かチャンスがないメンバーに発言の機会を与えるべきだ。ただ、次に気を付け ないといけないのは、日ごろ経営的な情報にほとんど接していないメンバー は、どうしても日常目にするマイナス面を会社の弱みととらえてしまう傾向が 強い。例えば、食堂が汚いとか、事務所の階段の上り下りで建物が古いから危 ないとか、2階に女子用のトイレがないとか。 ・これは、経営資源の棚卸しの弱みではない。日常の設備上の「愚痴」であ り、会社に対するクレームに近い。強み、弱みの分析に使う経営資源の棚卸と しては、老朽化した設備を更新するだけの財務基盤がぜい弱という表現が正し い。この愚痴のオンパレードにならないように注意する。そういう風に、うま くメンバーの発言をアレンジする司会進行役も大事だ。この司会、難しい表現 ではファシリティターという役割の人を決めておかないといけない。成岡はよ くこの役を仰せつかるが、これは非常に大事なのだ。 ・メンバーの選定を慎重に行い、司会進行役も決定しておく。経営トップの直 接の参加は遠慮していただき、会場の場所を決める。会社の会議室でもいい が、場合によっては外部の会場を借りてもいい。あるいは、休日に半日くらい 時間を割いて、誰もいない会社の会議室で行う。とにかく、日常の業務と切り 離した環境で行うことが大事だ。早く終わって現場に戻って、その日の仕事の 残りを片付けないといけないという環境で行うのは、好ましくない。非日常の 環境下で行うことが好ましい。 <予習と準備が大事> ・次に大事なことは、準備にどれくらい時間とエネルギーをかけるかだ。成功 のキーは、実はこの事前準備にある。参加のメンバーが決まったら、そのメン バーの情報量を同じくらいにしておかないといけない。あるいは、会社の経営 上の数字の知識を一緒にしておかないといけない。予習が重要で、何も予備知 識なく集まっても、時間のムダだ。特に、現在の経営状態や、過去からの歴史 沿革、大きな出来事、多額の設備投資の実績、財務内容など、重要な経営情報 をきちんと参加者が理解しておく。 ・となると、相当機微な情報も開示しないといけない。どれくらい借入金があ るのか、設備資産の内容はどうか、自己資本はどれくらいあるのか、などなど 相当に財務の知識がないと分からない内容もある。売上と利益くらいはそう難 しくないが、貸借対照表の資産と負債に関しては、経理部門以外のメンバーは あまりよく分からない。おカネがあまり潤沢でない企業が、膨大な設備投資の 計画を作っても、絵に描いた餅になる。当面、足下の業績がふらついている企 業は、今日明日の売上が大事だ。 ・過去の業績の推移や大きな出来事、設備投資など現在の背景もある程度共有 化しておかないと、重要な意思決定の際に間違う。歴史、沿革などは非常に重 要であり、これは会社の経営資源の棚卸し以外のカリキュラムかもしれない。 現在の代表取締役または古い役員などが、昔話ではなく赤裸々に過去の歴史を 振り返り、特にうまくいかなかった事業や投資に関して、総括をきちんとして おくことが大事だ。それを若いリーダー達に回顧物語ではなく、総括と反省と 言う意味で伝えておく。 <いまの強みが未来も強みになるか> ・いろいろな準備がそれなりに整ったら、時間と場所を決めて招集をかけ、集 まって2時間ほどで切り上げるのがいい。特に、冒頭代表者からきちんと挨拶 をしてもらう。今日、この時間を共有する意味や意義、目的、終わるときのイ メージ、成果物の期待レベル、今後の予定なども、予め参加メンバーに伝えて おくと、会議が迷走しない。最初の入り口が肝心で、こういうきちんとした段 取りを踏まずに、ただ何となく始まって終わったとなると、何も成果が残らな い。次につながらないと意味がない。 ・最初の1時間くらいは、みんなでワイワイガヤガヤやればいい。運営のルー ルとしては、否定しないこと、発言を遮らないこと、非難批判しないこと、全 員が等しく発言すること。そして、よくやる方法は、少し大きめのポストイッ トカードに自分の意見を書き出す。何枚でもいいから、どんどん書いてホワイ トボードに張り付ける。数名のメンバーのカードがたまってきたら、みんなで 眺めて同じような表現のものを重ねていく。そして、細かい表現は無視して、 大きな意味でその意見を集約する。 ・そうして、1時間くらいで経営資源の棚卸しを行う。大きな分類としては、 財務やおカネに関するもの、設備に関するもの、人と組織に関するもの、製品 商品サービスに関するもの。要するに、将来の事業計画を考えるときに、現在 の会社の経営資源をいくつかのカテゴリーに分けて分析し、評価し、客観的に 見ておく。そして、最後に大事なことは、その認識した強みが将来も強みとな るか、弱みはずっと弱みか。この判断は非常に重要であり、経営陣できちんと 共有化したほうがいい。