**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第736回配信分2018年06月04日発行 これからの中小企業経営の重要課題 これからの企業の事業価値向上戦略7回シリーズ:その6 〜常に経営革新を図る〜 **************************************************** <はじめに> ・事業価値を高めるには、常に自社のビジネスモデルを革新、刷新していく必 要がある。同じような事業やビジネスをしているようだが、よく見れば微妙に ビジネスの軸足を変えている。市場を変えるという場合もあれば、同じ市場に 少し異なる価値を提供するように変化していることもある。どちらが正しいと いうのではなく、そのときそのときの会社の置かれている立場、状況、環境な どで判断は異なる。これをきちんとできる企業は少ない。いろいろと試みる が、必ずしもうまくいくとは限らない。いや、うまくいくことのほうが少な い。それくらいビジネスは難しい面がある。 ・京都は永年続いている老舗企業も多い。逆に、最近勃興したベンチャー企業 もたくさんある。戦後立ち上がって世界的なビッグネームになった企業もあ る。多士済々で多くの企業が起こり、そして淘汰されて現在生き残って活動し ている。そういう企業を見ていると、起業時点のビジネスモデルにしがみつい て継続している企業はほとんどない。何らかの試練を経て、いまに至ってい る。その間に、多くの環境の変化を経験してきた。変わりたくないが、変わら ざるを得ない事情にさらされ、否応なく変化して脱皮してきた。そして、気が 付いたら大きな変化を遂げてきた企業が多い。 ・老舗企業の定義は100年以上継続している企業だが、100年と言えば経営者で 3代から4代。1代で30年だから、創業以降4人以上の経営者が交代してい る。それくらい継続するためには、経営の軸がしっかりしていることと、逆に 微妙な変化を遂げていることが見て取れる。変わらない軸と、変わる軸とが明 確にあって、それぞれが明確な理念と方針に基づいている。そういう企業でな いと100年以上もの永い期間にわたって世間から一定の評価を受けることは難 しい。環境がどんどん変わる中で、事業を継続していけるポテンシャルを維持 するのは、並大抵のことではできない。 <祖業から常に変化してきた企業が生き残る> ・京都は100年以上継続している老舗企業がダントツに多い。明治時代に創業 し、大正時代に世界恐慌の試練を受け、昭和時代に戦争を経験し、戦後の経済 成長時代にもぶれないで継続してきた。そのような企業を見ていると共通に言 えるのは、祖業の事業からの脱皮と変化、経営革新を図ってきたマネジメント の優秀さだ。常に経営陣が、これでいいのか、いいのかと、前向きに投資をし て会社のビジネスモデルを時代の変化に合わせて変えて来た。変えないと生き 残れない環境の中で、必然ともいえる変化を遂げてきた。それも徐々に変える ときもあれば、一気に革新を図ったときもある。 ・祖業が仏壇の金属飾りものの製造だったが、現在は医療分野の難作金属加工 で知られている企業。祖業は金箔貼りの事業だったが、現在では電子部品の製 造に欠かせない技術を誇る企業。祖業は香辛料の製造だったが、現在はレトル ト食品製造で成長した企業。祖業は町の開業医だったが、現在は介護事業から 医療事業まで総合的に運営する大規模医療法人。祖業は活版印刷だったが、現 在ではデジタル印刷で有名になった企業。祖業は陶磁器の製造だったが、現在 では世界的にセラミックで著名になった企業。このように見れば、じっと同じ ことをしている企業は少ない。 ・しかし、変わるのに失敗した企業もある。いきなりの新分野にチャレンジ し、なかなか成果を出せないまま消滅した企業もある。飲食業でも、製造業で も、加工業でも、サービス業でも、どんな業種や業界でもすべての企業が変わ ることに成功したとは限らない。成功した企業はメディアなどに取り上げら れ、有名になって世間でも知られているが、ひっそりと市場から退場した企業 は数知れない。起業しても3年後に生き残っている企業が僅かなであるのと同 じく、30年、50年、100年と続く企業はそんなに多くない。では、成功して継 続している企業は何が違うのか。 <強烈な問題意識が原点> ・まず失礼ながら経営陣の意識が違う。じっとしていたら退歩しているのと同 じだという強烈な危機感がある。時代が変わるのだから自らそれに合わせて変 わらないと置いて行かれるといういわば一種の恐怖心に近い危機感がある。し かし、外部から見ているとそんなに焦っているようには見えない。見えないと ころで、徐々に外部の変化に対して対応するための手を打っている。人材の採 用でもそうだ。同じような人材ではなく、異質な人材をときに採用する。それ も意図的に採用している。現場からはブーイングでも、経営陣には確固たる信 念がある。その路線が正しいという自信がある。 ・代表者の付き合いの範囲も広い。同業の人とはあまり付き合いをしないで、 異業種の人達や若い人たちとの接触や交流を大事にする。もちろん同業者の方 との付き合いも大事にはするが、学ぶことは異業種や学者、文化人、外国人な ど短期的には直接社業と関係ない人との付き合いや交流を大事にする。そこか ら新しい切り口の情報がもたらされ、新事業のヒントもある。決して同じ付き 合いを継続しない。常に変化を求めて新しい人脈の形成に注力する。すぐに日 の目を見ないが、そういう新しい接触や交流の中から新しい事業の芽が生まれ る。そう信じて疑わない。 ・新事業のヒントは偶然から生まれることが多い。図って、図って、準備し て、準備して新事業が成功したということより、たまたま出会ったり発見した り見つけたりしたヒントを膨らませて事業化したケースが多いというのが印象 だ。世界的な発見や発明も、偶然の産物が多い。ただし偶然をものにするに は、日ごろから強烈な問題意識を持続していないといけない。ぼやっとしてい ると、偶然の女神はあっという間に通り過ぎる。そして、常に疑問を持ち続 け、どうすればそれが解決できるかを考え続けている。煮詰まって、もうどう にもならない時に、偶然女神が通りかかる。 <偶然を必然に変える> ・「たまたま」運が良かったというのは、実は「たまたま」ではない。偶然を 必然に変える努力を継続して行っている。そしてその偶然のヒントを経営革新 に結び付ける。さらにビジネスにして、仕組みを作り、結果を出して事業の成 長に結びつけるのは、いわば至難の業だ。しかし、その至難の業を厭わずに地 道にこつこつと、時には大胆に、時には慎重に進めて結果を出せるのは経営者 以外の何物でもない。常に自社の経営革新を志向し、どのように、どのように と、一生懸命考えている。時に弛緩し、時に緊張し、時にテンションを高く し、時にのんびりする。 ・あと必要なのは、こだわり、執着心だ。妙な頑固さはマイナスだが、最後ま で諦めないスピリットは必要だ。最後は成功すると信じて、頑張り続ける体 力、気力も要る。途中で何度挫折しそうになったか分からないけれど、成功が 見えてくると元気が出てくる。出口の灯りが見えると、急にエネルギーが沸く のと同じだ。次は成功すると信じて、色々と方法を変え、工夫をし、違うやり 方をトライし、逆からやってみたり、素材を変えたり、考えられる可能性を全 部試して、それでも諦めない。意外と原因はシンプルな部分にあることが多 い。集中するのはいいが、意外と足下は見えていない。 ・経営革新というと、非常に大げさに思えるが、入り口は簡単に考えるべき だ。入り口のハードルを高くすると、最初から難しいと考えてしまう。革新と あるから革新でないといけないと思い込まない。自社のビジネスモデルを少し 変えるだけで、大きな新しい価値を生むこともある。単調な素材が工夫一つで 新鮮な素材に変わることもある。お客さんの何気ない一言で新しい商品が生ま れることもある。大事なことは、経営者が常にビジネスモデルの革新を考えて いるか、ということだ。日頃考えていない経営者に、革新の女神が微笑むはず がない。