**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1162回配信分2026年08月03日発行 全東信の粉飾決算はどうして見抜けなかったのか 〜企業側が数字を意図的に改竄したか〜 **************************************************** <はじめに> ・仕事柄あまり関係なく、興味関心がない方には縁のないテーマだろうが、ご 勘弁を。ご存じのように、全東信というクレジットカードの立替払いサービス を提供していた大阪に本社のある企業が、破綻した。負債総額は1,200億円か ら1.300億円ともいわれ、昨今では規模からして非常に大きな倒産劇になっ た。小規模な飲食店や夜の歓楽街のお店などが顧客で、この業界に大きな影響 が出るのではないかと懸念されている。この倒産劇の主たる原因が不正会計処 理にあったという報道があり、こういう分野で仕事をしている小職にすれば、 「どうして?」という疑問がぬぐえない。中小零細の企業ならいざしらず、上 場していないとはいえ資本金45億円の企業が、そう簡単に不正処理ができるの か?と疑問が湧いた。少し詳しく調べてみた。 ・まず、企業概要から。会社名は、株式会社全東信。事業内容は、クレジット カード決済代行で、顧客である加盟店への売上金早期立替払いサービスであ る。創業は1987年(昭和62年)5月、法人設立は2006年(平成18年)9月で、創 業から法人設立まで少し間がある。資本金は増資を繰り返し、破綻時点では45 億円。本社は大阪市中央区で、非上場(未上場)企業である。 未上場企業で あったため、有価証券報告書の提出義務はなく、東京証券取引所などの市場で 株式は売買されていない。一方で、加盟店数は20万店を超える時期もあり、決 済代行業界では大手の一角だった。しかし、2026年7月に大阪地方裁判所から 破産手続開始決定を受け、負債総額は約1,259億円と報じられている。近年に ない大きな倒産事案だ。影響は大きい。 ・全東信の粉飾決算疑惑では、預金残高の水増しや架空債権の計上、営業権や 関係会社との取引を巡る疑義など、大規模な不正会計の実態が明らかになりつ つある。一方で、「20年以上も粉飾が続いていたのに、なぜ見抜けなかったの か」という疑問も少なくない。 確かに、これほど長期間にわたって粉飾が続いていたとすれば、監査や金融機 関の審査は機能していたのかという疑問が生じる。しかし、会計や税務の専門 家の意見では、「後から全容を知った立場」と「当時の限られた情報で判断す る立場」は分けて考える必要があるとコメントされている。いくら厳密に会計 監査を行ったところで、企業側から提示される書類、数字が意図的に改竄され ていれば、それを正確に見抜くのは難しいという。どこかにいびつな箇所がで るはずだが、わからなかった。 <企業から提出された数字は正しいか> ・全東信は資本金45億円であり、会社法上は会計監査人を設置すべき規模の会 社である。本来会計監査人を設置すべき会社であっても、監査を受けていない 会社が存在することは以前から指摘されていた。そのような会社では、不正や 誤りを外部の第三者が発見する機会はさらに少ない。報道によれば、全東信に 対する金融機関の対応は一様ではなかった。メガバンクが取引を縮小・終了し た一方、地方銀行や信用組合などは融資を継続していた。監査人や金融機関 は、その時点で入手できた資料や証拠だけを基に判断している。後から全容が 判明した状態とは情報量が大きく異なる。結果としてメガバンクと地方銀行等 で判断が分かれたのであれば、その違いがどこにあったのかを検証すること は、ある意味有意義だろう。今後の参考になる。 ・毎年チェックを行っていても、その都度粉飾が更新されていたのであれば、 その時点の情報だけで全体像を把握することは容易ではない。重要なことは、 結果論で責任を論じるだけではなく、どの時点で、どのような兆候を捉えられ た可能性があったのか、という再発防止の視点で検証することだ。病気を診断 する医者と同じで、症状と兆候、患者の主訴(主な症状の訴え)を聞き分ける 「目利き力」が必要だ。会社の財務数字は、すべてが連動している。単に、そ の期の決算数字だけを取り出してみても分からない。過去からの流れ、経過、 いきさつ、背景などがわからないと、数字の羅列された表だけをみても、わか らない。時系列的な動きを把握する必要がある。人間の体重でも、増えて60kg になったのか、減って60kgになったのかでは大きく違う。 ・粉飾でもいろいろな方法があるのだろうが、基本的に利益を少なくする粉飾 に対しては税務署の目は厳しい。逆に、利益を多く見せる粉飾に関しては、脇 が甘くなることは否めない。利益が多いと、税金を多くとれるので、税務署に してみればいいお得意先だ。利益を多く水増しするのは、比較的簡単だ。期末 の棚卸資産を増やす、不良な売掛金をそのままにする、固定資産の償却をパス する、本来費用であるべき支出を資産につけ変える、などの方法がある。特 に、棚卸資産で、原材料、製品の仕掛、完成品や仕入れ商品の在庫数字など は、会社から提出された資料の数字がそのまま決算書に記載される。担当の税 理士や会計士が、現地倉庫に出向いて、実際に数字を確認、検証するというこ とは、まずない。企業から提出された数字そのままだ。 <どこかおかしいと気が付くはず> ・税理士の仕事は決算書を作成し、それに基づき税金の申告書を作る。税務署 に届けて、承認の印鑑をもらい、納付書に基づき、企業は法人税と消費税を納 付する。この納付する税金の金額の信ぴょう性を担保するのが決算書だ。法人 税は、ご存じのように利益にかかるから、損益計算書が重要になる。売上から 原価を引いて、残った粗利から一般管理費、経費を差し引く。残ったのが利益 だ。全部引き算の計算をする。赤字が続くと経営者は危機感を抱くのは当然 だ。この決算書では金融機関は、今後融資に応じてくれないのではないかとの 不安を抱く。そうなると、最終の利益が赤字にならない、黒字になるように数 字を操作する。期末の棚卸資産の中に、もう使えない在庫があっても、不良品 で落とさない。落とすと、期末の数字が減って、利益が減る。 ・売掛金も同様だ。毎年、いくらかはある売掛金の回収できないものを、きち んと処分、整理し、資産からマイナスする。当然利益はそれだけ減るのだが、 それをきちんとできるだけの利益を出しておかないといけない。決算書の確定 は取締役会の審議事項だろうから、全取締役がこの粉飾された決算書の改竄を 見抜けなかったのだろうか。経理担当者もいたはずだ。これだけの規模の企業 では、経理責任者が取締役であることも多い。また、監査役設置会社なら、監 査役は何をしていたのか。代表者、役員、経理責任者、顧問税理士、監査役な ど、株式公開していないとはいえ、多くのチェック機能があるはずだ。それ が、全部誤魔化されたのか。それなら、集団で粉飾を容認するような運営をし ていたのか、どうしても疑問が残る。 ・今回の全東信の粉飾で、腑に落ちないのは預金残高の誤魔化しだ。通常は、 金融機関から決算時点での残高証明を発行してもらう。これは誤魔化しようが ないはずだ。しかし、今回の全東信の粉飾では、この預金残高の改竄があった ようだ。現預金の数字の誤魔化しは難しいはずだ。誤魔化すと、どこかで数字 が合わなくなる。残高証明を発行してもらい、すぐに現金を移したのか。いろ いろな誤魔化す手口はあるのだろうが、ここまでになると完全に確信犯で、い わば犯罪に近くなる。そこまでしないと企業が維持できないという事態が異常 だ。決算書を作成する税理士、会計士の専門家たちは、見破れなかったのか。 どこかおかしいと気が付かなかったのか。そこまで巧妙に隠蔽ができるものだ ろうか。真実の解明を待つしかない。 <改竄はいつかバレる> ・業績が悪化して、資金繰りが苦しくなったとき、経営者はどう行動すべきな のだろうか。今回は、企業を存続さすために決算書の改竄に手を染めた。しか し、当然これは間違っている。誤魔化しても、いつか化けの皮ははがれる。そ れより、正しくやることが大事だ。資金繰りが悪化してからでは選択肢が急速 に減る。それより、事業計画や改善策を示し、現状を正しく説明すれば、返済 条件の見直しや追加融資などの支援を受けられることも少なくない。数字を誤 魔化して時間を稼ぐよりも、現実を直視し、経営改善に取り組むことの方が、 結果として会社を守ることになる。金融機関も、赤字だから直ちに融資を打ち 切るわけではない。事業の将来性や改善計画を示し、経営者が誠実に説明する ことで融資を受けられるケースは少なくない。 ・一方で、決算書そのものの信頼性が失われれば、融資だけでなく取引や採用 など、企業活動全体に深刻な影響を及ぼす。全東信事件が示した最大の教訓 は、粉飾は会社を救うものではなく、経営改善を先送りし、企業の存続に疑義 を生じさせる行為になるということだ。上場している大企業でも、粉飾、隠蔽 の実態が明るみに出た。東芝、オリンパス、ニデックなど、そうそうたる大企 業でも粉飾が行われた。そして今回の全東信では貸借対照表全体を書き換える ような粉飾が疑われている。手口は異なるが、「今回だけ何とかなる」という 判断を繰り返した結果、企業にとって最も重要な資産である「信用」を失った という点は共通している。企業経営において信用とは、金融機関からの融資だ けを意味しない。それ以外にも、企業経営には多くの利害関係者がある。 ・得意先との継続的な取引、仕入先からの安定的な仕入、従業員の会社に対す る信頼感、地域社会からの評価、金融機関からの融資、そのすべてが企業活動 は正しく行われているという「信用」の上に成り立っている。一度失われた信 用を取り戻すことは容易ではない。だからこそ、決算書を誤魔化して問題を先 送りすることは、会社の未来を守るどころか、自ら最も大切な「信用」という 財産を失うことになる。経営者が向き合うべき相手は、決算書ではなく現実 だ。以前小職が在籍し、破綻した出版社では、金融機関に提出する資料を金融 機関ごとに改竄していた。それがバレて、一気に信用失墜を招いた。多くの金 融機関から融資があり、それぞれ説明する内容を変えていた。そして、遂に最 後に破綻した。我々経営陣の責任は大きかった。