**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1160回配信分2026年07月20日発行 財務省が私立大学250校を要らないと言い出した 〜約4割の私立大学を不要という理由は〜 **************************************************** <はじめに> ・先日、財務省が驚愕の提案を行った。このまま少子化が進めば、日本の私立 大学数を250校くらい減らす必要があるとの試算を発表した。財務省、つまり 国のおカネをコントロールする役所が私立大学数に言及するのは極めて珍しい だろう。このままの少子化傾向が進めば、いずれ私立大学の半分は維持できな くなる。財務省は私立大学に多額の補助金、助成金を出している立場からの発 言だ。将来維持できなくなるとわかっている私立大学に多額の先行投資をする わけにはいかないとの主張だ。これはある意味ごもっともな意見で、当然と言 えば当然だ。いつかはこういう発言、発表をしないといけないと思っていたの だろうが、とうとう聖域に踏み込んだ。現に、多くの大学が定員割れになり、 赤字経営になっている現実がある。 ・ちなみに、数字で少し確認しておこう。現在、日本全国に大学と称されるの は、810校ある。うちわけは、国立大学85校、公立大学101校、私立大学624 校、合計810校だ。割合は、国立大学10.5%、公立大学12.5%、私立大学77.0 %。つまり、4校に3校は私立大学だ。この数字には、短期大学は含まれてい ない。短期大学は全国に292校あり、公立が14校、私立が278校ある。短期大学 は最近定員不足が顕著になり、募集停止、閉校の流れが止まらない。短期大学 を除く4年制以上の大学で、財務省は250校の私立大学を削減する必要に言及 した。624校ある私立大学のうち、250校というのは約4割に該当する。10校の うち4校を閉鎖するというのは、非常に大きな数字だ。いつまでにという期限 はないが、そう遠い将来ではないだろう。 ・本来なら、役所の縦割り行政からすると、財務省がおカネを出しているとは いえ、管轄外の文科省の大学にいちゃもんを付けるのは珍しい。しかし、文科 省は意外とこの発表に正面から反論しなかった。「ほっとけ、うるさい」とは 言わなかった。言いたいのだろうが、実は本音は同じかもしれない。これだけ 明確な人口減少が起こっているのに、これだけ多くの私立大学が存続できるは ずがない。誰もが分かっている不都合な真実なのだが、誰も猫の首に鈴をつけ ることをしない。不都合を不都合と言うと、軋轢が生じる。しかし、民間企業 はこの動きは分かっている。大学周辺で事業を営んでいる事業者は、いずれ近 隣の私大がなくなるであろう未来に向けて手をこまねいているわけではない。 大学に限らず、小学校、中学校、高校も同じだ。 <以前在籍の出版社では大学と図書館が市場> ・小職が出版社に在籍していた昭和60年から平成にかけての時代、大学は全国 に400〜500校くらいではなかったかと覚えている。今回、この原稿を書くにあ たり、AIに問い合わせをしてみた。昭和50年には、大学数(国公立、私立併せ て:以下同じ)420校、昭和55年には446校、昭和59年には460校だった。増加 した40校の大半は私立大学だった。ちなみに、公立図書館の数は、昭和50年に 約1,000か所、昭和55年に1,250か所、昭和59年に約1,450か所となっている。 大学数の増加より、はるかに大きな図書館数の伸びがあり、生涯教育環境の整 備が進んだ時代だ。なぜ、大学数と図書館数にこだわるかといえば、当時在籍 していた出版社は専門書、学術書を出版しており、この数が対象市場だったか らだ。商売の基本数字だ。 ・定価の非常に高い、1冊数千円から万円を超す学術書や専門書に関して、一 般人は読者対象にならない。大学や学会の研究者、大学院の学生、大学図書 館、一定以上の予算がある公立図書館、などがお客さんだ。合計すると、約 1000から1500か。なので、当時専門書、学術書の初版刷部数は2000部が基準 だった。上梓後1年くらいで約半分の1000部が売れ、残った1000部が5年くら いでなくなる。再版は滅多なことでないとしないし、できない。定価は比較的 高いので、一定の年間予算がある図書館でないと購入できない。しかし、おお よそ5年前後で、ほぼ在庫はなくなり、莫大ではないが一定の収益が見込め る。内容によっては、10年くらいで改訂版を出せれば、なおいい。確実に収益 が見込める企画になる。大きな損はない。 ・これらの書籍は、一般の人が足を運ぶ書店の棚にはない。知る人ぞ知る書籍 なので、学会の会場での展示販売や専門学会誌への広告掲載、図書館の司書さ んへの情報提供が主な営業活動になる。扱える書店は規模の大きな書店か、大 学の研究室に出入りする特殊な専門書を扱う大学近辺の小規模な書店に限られ る。京都市内には大学が40校以上あり、このような特殊なビジネスもあまり違 和感はないが、地方に行くとほとんど当時は県庁所在地に大学があるくらい で、地方都市に出張に行くことは滅多になかった。たまたま成岡が担当した静 岡県では、浜松市と静岡市だけが対象地域だった。人口が数10万人以上でない と営業活動しても成果が期待できない。販売に行っても、すぐにその場で購入 が決まるわけではない。来期の予算で買うことになる。 <学生数が3分の1に> ・話題を戻すが、左様に大学数と図書館数は非常に大きな要素だった。この昭 和50年当時の420校の大学数が、50年経った現在810校に増えている。倍とは言 わないが、ほぼ倍に近い。国公立大学も多少は増えているだろうが、増加した 大学数の大半は私立大学だ。なかには、単科大学が総合大学になったり、短期 大学が4年制になったり、看護専門学校が4年制の大学になっていたりしてい る。単純に、雨後の筍のように、続々と際限なく私立大学が増えたとはいえな いが、しかし、増加数の大半は首都圏中心にできた4年生の私立大学だ。成岡 の年齢層が大学に進学した昭和45年当時の18歳人口はざっと200万人。それ が、つい最近の出生数で70万人を切った。大学数が余剰であることは誰が見て も明らかな事実だ。 ・この70万人の出生数の彼ら、彼女らが18歳になり、大学進学年齢になったと きに対象人数は昭和50年当時の約3分の1に減少する。当然、私学で定員割れ する大学が続出するだろう。その前に、募集停止、閉校という事態になる大学 も多いはずだ。4年制大学というのは、いったん1回生で受け入れた学生は4 回生を卒業して、社会に送り出す前提で募集をしている。よって、いったん募 集停止、閉校を決定しても、そこから数年間は募集停止をしても、赤字になる ことを覚悟しないといけない。閉校するにも資金の見通しが立たないと、閉校 できない。ぎりぎりまで頑張って、何とかするという意志だけでは成り立たな い。資金の見通しに余裕がある時点で、数年先の閉校を決めないといけない。 先を見通した経営陣の意思決定が要る。 ・県庁所在地もしくはその周辺にある私立大学が閉校になる場合、周辺の事業 者に与える影響は大きい。首都圏のように近隣に複数の大学があれば別だが、 地方都市はそうではない。大学生の住まい、食生活に関する小売業、移動交通 手段、アルバイトの働き手、などなど多くの関連したビジネスが多大な影響を 受ける。大きな工場が閉鎖されるのと似ている。製造業の工場の場合は、別の 企業が買収し、また別の製品を製造する事業所になる可能性はあるが、大学の 場合、施設、建物、設備などは、転用が難しい。医療機関なら老人介護施設に 転用もあり得るが、大学という教育、研究機関が、他の事業に転用できる可能 性は極めて低い。取り壊し、更地にして、他の用途を考えることになるだろ う。解体の時間と費用も相当なものになる。 <経営者の意識次第> ・今回は私立大学をとりあげたが、この類のテーマは枚挙にいとまない。財務 省が多額の私立大学へ補助金、助成金を支出しているので、立場上250校の私 立大学が要らないと言った。文科省も、ダンマリでこれを暗黙に容認した。こ のように、いったん膨張した業界、事業を、今後粛々と縮小する動きが加速す る。地元京都では、西陣織の産地問屋協同組合が5月末で解散する決議をし た。昭和40年代から50年代にかけて、当時隆盛を誇った和装業界だが、生活環 境の変化、社会情勢の激変、女性の社会進出などの動きの影響を受け、どうに も和装業界の衰退は止められなかった。数社の企業が頑張って、どうこうなる ものではない。協同組合の解散は遅きに失したといえるかもしれないが、まだ 解散して余剰の資産を処分できればいい。 ・怖いのは、土壇場まで粘って頑張って、矢折れ、刀尽きて、法的処理に至る ケースだ。多大な迷惑を周囲にかけての清算になる。関係業界、団体、企業に 大きなマイナスの影響を及ぼす。当然、金融機関を始め、債権者にはほとんど 清算しての配当は行き渡らない。大きな貸し倒れ損を出して、泣き寝入りにな る。売掛金は戻らず、納品した製品や商品はパーになり、未収金は回収でき ず、丸損になる。少額なら諦めもつくが、大きな金額ならまるごと赤字にな り、影響は大きい。最悪は連鎖倒産という事態になりかねない。そうならない ように、経営者は5年、10年、20年というスパンで将来を見通しておかないと いけない。しかし、そう簡単に未来が見えるわけではないが、今回の私大のよ うに確実にやってくる未来の姿もある。 ・一番怖いのは、都合の悪いことに目をつぶることだ。明らかな未来とは、少 子化、高齢化、地球温暖化などだ。子供の数は減り、高齢者が増える。その影 響で農業従事者の人口が減る。農作物の生産者が減り、国内生産量が激減する だろう。地球温暖化も止められない。現に、漁業はじめ生態系が大きく変化し ている。マグロが山ほど獲れすぎたり、クマが街中に頻繁に出没する。40度以 上を夏場に記録する回数が増える。ヨーロッパでは熱波で多くの死者が出てい る。そのうち、夏にもうひとつ酷暑という季節が加わるだろう。確実にやって くるこれらの事態に、どう備えるか。商売替えするか、とことん頑張るか。何 を変えて、何を変えないか。一番大事なことは、経営者自身の心の持ちよう だ。この事態に対応するには、経営者の意識次第だ。