**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1159回配信分2026年07月13日発行 政府主導のクールジャパン機構はなぜ失敗したのか 〜官僚がカネを出したから口も出すビジネスはうまくいかない〜 **************************************************** <はじめに> ・日本の文化やサービスの海外展開を後押しする官民ファンドである「海外需 要開拓支援機構(以下クールジャパン機構)」が存続の危機だ。おそらく、ど こかの機構に統合、吸収などの清算が行われるだろう。担当の赤沢亮正経済産 業大臣は、6月16日の記者会見で「損益目標に達しないなら検討会を設置して 対応を考える」と発言した。単独での存続は難しいだろう。これほど多額の赤 字を積み上げ、収支の改善もままならず、さらに今後の見通しも暗いとなる と、当然だ。なにごとも、始めるのは簡単だが、終わり方は難しい。早く手を 打たないと、ますます赤字が積みあがる。政府が投資した莫大なおカネ(血税 だ!)がドブに捨てられた。これほどの赤字を積み上げた責任はどうするの か。早くケジメをつけるべきだ。民間企業なら、とっくに清算されている。 ・安倍政権肝いりの目玉施策「クールジャパン」事業を進めるために設けられ た官民ファンドの「クールジャパン機構」。ほとんどの資金を政府が出資し、 一部を民間企業が出資した。見込みのありそうな事業をピックアップし、特に 海外展開を支援するため、資金を提供する。ファンドだから、事業に出資、投 資し、リターンを求める。リターンは、配当になるか、上場して高額の株価が つき売却して投資資金を回収する。事業が失敗すると、投資したおカネは戻っ てこない。非常にリスクの大きい投資になる。一般に金融機関が行う事業に対 する融資は、必ず一定期間の返済が伴う。創業間もない企業の場合、業歴、実 績がないので信用がない。そのため、いいコンテンツ、事業内容であっても資 金不足になる。そこにファンドが投資する。それは間違いではない。 ・「クールジャパン機構」も、多くの事業に投資をした。特に、海外展開を企 図する事業や会社、組織に集中的に投資した。中には、もちろん成功した企業 もある。ラーメンチェーン店を展開する企業は、海外に進出するのにこのファ ンドを活用し、成功した。他に、アニメやエンタメ系の事業を海外に紹介する 効果、貢献はあっただろう。逆に、山形県に新設されたベンチャー企業に投資 したおカネは戻ってこなかった。特殊な化学繊維を製造する企業で、成岡も注 目していたのだが、スタート当初はうまく事業が軌道に乗りそうにみえたが、 その後の成長、発展が見込めず、他社に事業譲渡し特別清算になる予定だ。特 別清算も法的には破産と同じなので、投資した血税は戻ってこない。経営陣は 退陣した。将来を嘱望されていたのだが。 <韓国では同じプロジェクトが成功した> ・事業の目的を絞り込み、お隣の韓国では成功している事例もある。日本の 「クールジャパン」と韓国のKOCCA(韓国コンテンツ振興院)を比較すると、 「日本のコンテンツそのものは強かったが、世界市場で売る仕組みが弱かっ た」「韓国は国家戦略として世界展開の仕組みを作った」という違いが大きい と言われている。理由や原因はいろいろと考えられるだろうが、官民ファンド でも官が主体になると、多くの役所、省庁の利権争いになる。そうなると、目 的が多岐にわたり、方針が迷走し、八方美人的な解決策しか出てこない。日本 のクールジャパン構想は、日本文化を海外に紹介することが目的だった。あく までも「紹介」であり、ビジネスにつなげるという発想が薄かった。「日本の 魅力を海外に発信する」という広報的な活動が主体になった。 ・それに反して、韓国のKOCCA(韓国コンテンツ振興院)最初から「コンテン ツ産業を輸出産業に育てる」ことが目的 だった。これははっきりしていた。 従って、輸出額や海外売上など明確な目標を設定 し、世界市場で利益を上げ ることを重視した。もともと、韓国は人口も少なく、国土も狭い。隣接する北 朝鮮とは現在も戦闘状態が継続しているという特殊な事情がある。そのため、 韓国のビジネスは最初から海外を向いている。半導体であれ、自動車であれ、 エンタメであれ、最初から市場は海外だ。そこでメシを食えるようにしない と、国内市場だけでは成長を望めないし、期待できない。最初からわかってい ることだ。なので、最初から世界標準を目指し、海外でビジネスとして成り立 つことを前提にしている。日本の様にガラパゴスではない。 ・韓国ではKOCCAが有望な制作会社、アーティスト、ゲーム会社、映画会社、 配信会社などを一体で支援し、「海外で売れるコンテンツ」を育成した。ま た、コンテンツに関しては、K-POP、ドラマ、映画、ゲームなどすべてについ て、「アジア向け」ではなく最初から世界市場を対象にした。また、メディア に対しても、Netflix、Disneyなど世界の配信会社と積極的に提携した。その 結果、世界的にヒットしたコンテンツが生まれ、脚本家、CGクリエイター、音 楽プロデューサー、ゲーム開発者などへの教育を継続的に実施した。つまり、 当初から「世界で売れるように企画・育成・資金・配信・マーケティングまで 一体で支援する」という産業政策を徹底した。 この「コンテンツ制作力」と 「海外展開の仕組み」の差が成果の違いにつながった。 <官僚の作文ではうまくいかない> ・日本では、逆に投資先が多岐にわたり、それぞれの成果目標、指標があいま いになった。方法としても、行政主導で補助金を配る仕組みが多く、民間企業 のマーケティングとの連携が十分ではなかった。 また、日本は長くテレビ局 中心で、世界への配信対応が比較的遅れた。日本では、出版社、テレビ局、制 作会社、音楽会社など権利が細かく分かれているため、海外展開のスピードが 遅くなる。いつもそうなのだが、日本は個々のクリエイターの能力は非常に高 い一方、産業全体として体系的な育成は相対的に弱かったと評価されている。 「良いものを作れば世界に評価される」という発想が比較的強かった。行動が 正しければ、結果は自ずとついてくるという甘い見通しが大きかった。結果を 出すためにどうするかという発想が希薄だった。 ・辛口で辛辣なコメントで恐縮だが、そもそもこれら民間企業が本来行う新規 事業に、政府が投資、出資するなら、その資金はまず一方通行(行ってらっ しゃい)になることを覚悟して投資をしないといけない。投資の反対語はリ ターン、すなわち配当だ。投資をすると、事業内容、経営内容には当然口を出 す。政府投資といっても、公金税金だから、本来失敗は税金の無駄遣いにな る。投資の責任は誰が取るのか。民間なら、投資した人がかぶるのが常識だ。 そもそも、役所の人間に目利き力があって、投資内容を吟味し、事業内容を見 通し、きちんと判断できるのか。できないなら、政府が投資をすることは間違 いだ。補助金ならわかる。補助金は一方通行だ。当初のイメージ通りで進まな くても、支給した補助金は戻ってこないと割り切らざるを得ない。 ・こういう政府投資の事業失敗は、じつは過去に山ほどある。頭のいい官僚た ちが考えることなので、間違いではないが、各自が事業を営んだことがない、 自身で創業した経験がないから、事業経営の勘所が分からない。運動神経のい い人でも野球やサッカーがうまいとは限らない。机上のプランはできても、実 際の経営の現場では公式通りに解ける問題は出てこない。教科書に書いていな い想定外の事態も起これば、採用した人材が期待通りに稼働しない場合もあ る。新しい製品が予定通りにできて、予定の販売先に売れて、順調に代金が回 収できるとは限らない。事業経営とは、想定外の連続であり、その都度未経験 の場面に遭遇する。そこで監督が出すサインに迷いがあると、ほとんどのケー スで結果はうまくいかないものだ。経験しないと分からない。 <政府が介入するとビジネスは失敗する> ・補助金の様に審査は厳正に行い、計画を是と判断して、おカネを供給する。 あとは企業側の責任だが、投資、出資は違う。資金を出したという事実が重た く、株主だから経営には口を出す。言葉は発しても、汗をかかないなら、言う だけになる。むしろ、大きいのは、おカネよりルールの制限を緩和し、なくす こと。実際のビジネスの現場では、古いルールがまだまかり通り、古色蒼然と した慣習が厳然と生きている。どう考えても不合理だと思えるが、既得権益を 排除するのは、そう簡単ではない。幼稚園と保育園は管轄官庁が異なる。理髪 店と美容院を一緒に同一場所で行ってはいけない。農業法人に民間企業が出資 するには、相当高いハードルがある。タクシー料金、銭湯の料金も都道府県の 認可制だ。お上にお伺いを立てないといけない。 ・投資された資金は、いったん企業経営の資金になり、融資返済と異なり、い きなり高額の配当を要求されることは少ない。一定期間、事業が軌道に乗るま で猶予期間があるのが普通だ。しかし、数年してもなかなか当初予定通り軌道 に乗らない事業も多くある。規制やルールの壁、人材の枯渇、運転資金や投資 資金不足、販売先が見つからない、経営方針を巡る経営陣の分裂など、うまく 事業が回らない理由はいくらでもある。ないほうがおかしい。そこに一度潤沢 な政府投資資金があると、脇が甘くなり、見通しが楽観的になり、マネジメン トにすきが生まれる。これが、融資、返済だと、相当の緊張感がある。当然、 返済時期の繰越、延長もあるので、その場合はきちんとした見通しを示して金 融機関の了解を得る必要がある。命がけの交渉、折衝だ。 ・カネは出しても口は出さない。これができればいいが、やはり官がカネを出 すと、口も出さざるを得ない。あるいは、先輩官僚幹部が始めた事業を、後輩 が中止するのは難しい。そこに、つまらぬ忖度、斟酌が生まれる余地が大き い。官がやっても、民間と同じ感覚でやらないといけない。民間企業では、説 明責任を果たすことが必要だ。ところが、官庁がやることには説明を公表する ということが少ない。現在紛糾している北陸新幹線の延伸事業も、採算計算の 根拠が不開示だ。どういう前提で計算した採算計算かわからない。途中経過の 説明もなく、結果だけを言われて信じろと言う方が無理だろう。官が本来民間 でやる事業に手や口を出してはいけない。無謀な政府投資は、結局財政規律に 穴を開け、海外からの信認を得られず、円安の原因になっている。