**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1156回配信分2026年06月22日発行 家電業界は大地殻変動の時代に突入 〜家電製品は所有資産から単機能ジェネリック製品に〜 **************************************************** <はじめに> ・家電業界の最近の動きは激しい。ヤマダ電機とエディオンが経営統合すると 発表し、その少し前には日立の家電部門をノジマ電気が事業譲渡を受けるとの 決定があった。また、家電の雄パナソニックがいくつかの家電事業部門から撤 退すると発表し、大きな動きがずいぶん以前から続いている。これらは何を意 味するのか。大きなマクロ的な見方をすれば、家電製品、特に白物家電と言わ れる事業分野が、以前の付加価値の高い事業から、収益力の高くない事業分野 に移ったということだろう。かなり以前に、ソニーはほとんどの家電部門、パ ソコン部門を外部に売却した。東芝も外部に譲渡し撤退した。逆に、アイリス オーヤマ、ニトリ、山善などが家電部門に進出している。小売りでは、ドンキ にも珍しいブランドの家電製品が並んでいる。 ・以前の白物家電と言えば、TVなどはパナソニック(過去は松下電器)、モー ターなどの回転ものは東芝か日立などが一定のブランド力を保持していた。成 岡の実家の近所にはナショナル家電のN電器ショップがあり、エアコン、カ ラーTV、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなど、ほとんどの家電はそのNナショナ ルショップで買っていた。姉が東京に嫁いだ昭和50年代ごろは、多くの嫁入り 家電製品をそのN店で購入した。当時は大得意先だったと思われる。その代わ り、小さな故障、修理、蛍光灯の交換など、何でも全部そのNナショナル ショップでやってくれた。成岡の両親が高齢になり、高いところの蛍光灯の交 換などは無理。その際は、夜遅くでも飛んできてくれた。まさに街の電気屋さ んだった。逆に、新製品の購入の際は言いなりだった。 ・高機能が売りだった。新しい機能が満載で、次第に高齢者には操作が難しく なってきた。おそらく機能の半分も使っていないのではなかろうか。最近のパ ソコン、車、スマホでもそうだが、搭載されている機能の半分も使っていない だろう。所有者の知識不足もあるが、機能が多岐にわたりすぎてカバーできな い。取り扱い説明書もない。得手な人に聞くか、教えてもらうか、NETで検索 するか、AIに問い合わせるか。代わりに台頭してきたのが、そこまでの高機能 は要らない、適当な機能さえあればいいという「ジェネリック家電」だ(この 表現は最近こういう言葉があるのを知った)。アイリスオーヤマは少し違うと 思うが(これは後で少し触れる)、それ以外のジェネリック家電は、ほぼこの コンセプトであることが多い。以前にはなかった考え方だ。 <家電製品は資産ではなく消耗品に> ・電子レンジも温める機能だけに特化した製品がある。一人暮らしの独身者、 単身赴任者、学生にはこれでいいのだ。面倒で手の込んだ料理を頻繁にするわ けではない。スーパーで冷凍食品を買ってきて、チンするだけだ。袋に親切 に、○〇Wで何分間と書いてある。最低限の機能で十分だ。扇風機も、強度回 転数、タイマーが付いているだけでいい。首振り角度の選択などは要らない。 そして、移転、引っ越しなどが多いと、その都度中古として売却する。引っ越 し先にもっていかない。つまり、所有することではなく、必要な期間使用する だけだ。それなら、安価で最低限の機能だけあればいい。車のレンタカー、タ イムスの時間借りと同じ発想だ。それで十分だ。まして日中は職場や学校、バ イト先にいる。自宅で過ごすのは、一日のうちの数時間だ。専業主婦ではな い。 ・以前なら家電メーカーになるには、莫大な投資が必要だった。研究所を起ち 上げ、生産設備に投資をし、それなりの土地、建物、人員を配置し、一定の数 量の生産量を確保する。販売ネットワークも必要だ。大企業の大資本でないと できない事業領域だった。ところが、多品種、小ロットになり、消費者のニー ズが変わってきた。以前と同様に、高機能を求める消費者も一定数はある。し かし、前述のようにそうでもない、単機能でいいという層も増えてきた。人口 は減少するのに、世帯数は増えている。つまり、一世帯当たりの人数が減って いるのだ。高齢者の一人暮らし、単身赴任者の増加、学生の住まいも賄い付き の下宿ではなく一人暮らしの学生マンションが主流だ。結婚年齢も毎年高齢化 し、単身者生活の時間が延びてきた。NET販売の拡大も大きい。 ・そして生産に関するインフラが劇的に変わった。中国などの海外で、多くの 機動力のある製造業が台頭した。回路、基板、金型などの主要な生産を分業で 高度な技術を持った新興企業が多く出現した。アイデアを提示さえすれば、い とも簡単に立派な家電製品ができる。あるいは現地で既に製品に完成している ものでも、色を変えて自社の銘盤を打てば、それでその企業の製品になる。 ロット5000台で3か月以内に製造して欲しいと言えば、いとも簡単に家電製品 ができる。それをコンテナに満載し、1か月かけて日本に到着する。大手家電 メーカーが太刀打ちできる環境ではない。市場は狭くても、十分採算が合う。 大手家電なら、200億円以上市場がないと採算が取れないと言われている。10 分の1以下の市場でもビジネスになる。家電は資産ではなく消耗品になった。 <新興企業でも簡単に製造できる> ・アイリスオーヤマは少し違う。もともとこの企業は大阪の樹脂製造業の企業 だ。空襲を避けるために仙台に移転した。シャープやサンヨーが事業縮小した 際に多くの退職した技術者を採用した。研究機関を作り、製造は一部外部に委 託するものの、自社ブランドで高機能と単機能の中間の付加価値の製品を起ち 上げた。やはり一定の市場があり、評価を得ている。最近の消費者は、以前の 家電メーカーの神話から抜け出し、選択肢が広い。これにはインターネットの 情報拡散効果が大きい。消費者は、いまやどんな場所でも多くの製品情報を入 手できる。使用者、購入者の生きた情報も満載だ。家内などは、安い家電製品 の購入でも、膨大な時間をかけてスマホの画面から離れない。小生なら短時間 で意思決定すると思われる場合でも、長時間かけて調べている。 ・機能と価格、利用者や消費者のコメントを参考に、買うものを決めたら Amazonで注文する。場合によっては家電量販店に出向く場合もあるが、量販店 の店頭で見て、Amazonに注文する。指定された日時に、足元まで無料で配達し てくれる。軽くて、小さい家電製品は、ほとんどこのパターンだ。さすがに、 洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなどは、量販店に出向いて店頭で店員さんの説明 をしつこいくらい聞きまくって、そこから迷いに迷って購入する。非常に時間 と手間をかける。これらは資産になるだろうが、かさばらない価格の安価な家 電製品は使い捨てで消耗品だ。所有より使用にシフトした。買い替えればいい と割り切っている。住環境も、家族構成、年齢により、一戸建てに長く住むよ り、子供の年齢や学校などの条件で引っ越す場合が多い。 ・海外では、引っ越しが当たり前のように住まいを変える。一生の間に10回く らい引っ越すのが普通という国もある。日本は農耕民族で、農地、土地に縛ら れ、執着することが多い。一戸建ての住宅は一生で最大の投資になる。借り る、使用するより、所有することを選ぶ国民性がまだ強い。固定した住まいだ と、高価格の家電製品は当然資産だ。機能の多いものを買って、長く使う。寿 命の長いものを選ぶ傾向が強い。家電製品とはそういうものだという神話が長 く信じられてきた。しかし、インターネットの発達で世界がグローバル化し、 家電製品も世界中で製造することが可能になった。高性能の部品を集めて組み 立て加工は別の場所で行うという新しいサプライチェーンのビジネスモデルが 出来上がった。新興企業でも簡単に家電製品ができる。 <地域に関係なく一定品質の製品ができる> ・家電製品に関わらず、今後このようなビジネスモデルの事業が世界中で行わ れるだろう。従来、家電製品を製造するなどということが考えられなかった企 業が、いとも簡単に家電製品を製造する。異業種が簡単にこの業界に参入す る。無印良品、家具のニトリなどがその典型か。販売ネットワークを持つ量販 店が製造業に進出する。ノジマの日立家電部門の買収がそうだ。量販店ではお 客のニーズ、要望、声が毎日山の様に集まる。腕利きの販売員なら、お客がど ういう機能を欲しがっているかを、いとも簡単に聞き出す。それを簡単に集約 し、AIという道具にかけると、新製品の企画などあっという間に出来上がる。 海外のアッセンブリー製造業者に委託すると、小ロットでも安価で製品が製造 できる。30年前には考えられなかったビジネスモデルだ。 ・家電製品業界に限らない。家具や台所製品、水回りの浴室、リビングなどの 住環境製品なども、いずれ似たような環境になるだろう。自動車もそうなる可 能性もある。パソコンなどのIT機器もそうなるだろう。現実にそのような動き が出始めている。従来は同業種間の競争だけを考えておればよかったが、いま や上下左右から異業種がいとも簡単に参入、進出してくる。参入障壁が非常に 低くなった。また、消費者のブランド志向も大きく変わった。うちの家電製品 は、・・・・というメーカーの製品に限るという固定観念、既成概念がなく なった。知らないブランドでも十分値打ちの製品が溢れている。リサイクルし て使うという新しいアイデアも浸透しつつある。中古品市場も、非常に活性化 している。NETで市場に出てくる新品に近い商品も多い。 ・以前、MADE IN CHAINAと書いてあれば敬遠した人も多かったが、昨今はほと んど気にしない。気にしないくらい、そのような製品が溢れている。部品だけ 海外で、組み立ては日本という製品もあれば、最終工程まで海外という製品も 多い。まだ、海外、特に東アジアの方が労働コストは安い。物流網も次第に完 備されてきた。ロジスティックも海外でも充実してきた。ITの進化で大きくビ ジネス環境は変わりつつある。どこで製造しようが同じような性能、品質の製 品が簡単にできるようになりつつある。ロボットが普及してくると、さらにこ の傾向は深まるだろう。人口減少が避けられない日本国は、どういう分野で生 き残るのか。政府の言う17分野が果たして日本の生き残る道か。もっと狭く 尖った分野に絞る方が得策ではないか。官僚の作文の鵜呑みでは復活はおぼつ かない。