**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1154回配信分2026年06月08日発行 ニデックの不正会計・品質偽装から学ぶこと 〜トップの無理な号令を正す仕組みがなかった〜 **************************************************** <はじめに> ・類まれなカリスマといわれたワンマン経営者の牽引によって急成長を遂げて きた日本企業の成功神話が、今、音を立てて崩れようとしている。熾烈なグ ローバル競争を勝ち抜くため、徹底したトップダウン経営で邁進してきたが、 そのプレッシャーが生み出した歪みが大規模な不正として次々と露呈してい る。ハードディスクドライブ用モーターで世界トップシェアを握る東証プライ ム上場の「ニデック(旧日本電産)」では、累計1607億円にも及ぶ利益の水増 しという、あまりにも膨大で大胆な不正会計が明らかになった。証券取引等監 視委員会が強制調査を見据え検査に乗り出す事態となり、減損処理額は2500億 円規模に膨らむ見通しだ。利益の2500億円は、利益率8%と仮定しても、売上 で3兆円に及ぶ。あまりに膨大な数字だ。 ・この問題の根深さ、本質は、単なる経理上のミスでは片付かない、企業風土 そのものの歪みにある。社内に設けられた第三者委員会の調査によれば、資産 の評価損回避や売り上げの前倒し計上など多岐にわたる不正の背景には、創業 者である永守重信氏が求めた「高い目標達成への強烈なプレッシャー」があっ たと指摘されている。到底達成不可能なノルマを突きつけられ、正当な手段で 応えられなくなった現場が不正に走らざるを得なかったという構図は、働く 人々の倫理観を蝕むだけでなく、企業統治の機能不全を浮き彫りにした。絶対 権力者の前で「NO」と言えない閉鎖的な環境に、市場や一般社会からは怒りと 困惑の声が出ている。ワンマン経営は、ときに意思決定が早く臨機応変に環境 変化に対応できるが、牽制機能が働かない。 ・SNS上では、こうした現状に対する厳しい意見が溢れている。「間違いを認 められず、誤魔化したり騙したりしだしたら、リーダーどころか、人として終 わっている」。「不正が表面化したのは企業文化の問題だが、株価はすぐに回 復しない」。「利益の成長は評価される。でも数字への信頼が揺らぐと、積み 上げた企業価値は一瞬で毀損する」。利益だけを追求し、組織を無理に牽引し た結果、経営陣自らが不正の温床を作り出してしまったという皮肉な構図に なった。グローバル市場で戦うために、厳しい目標設定や事業の効率化を通じ た利益創出は至上命題だが、ガバナンス強化や内部監査といった「守り」への コストを軽視し、現場への圧力だけで数字を作らせる体制を続けるのであれ ば、最後は株価の暴落や上場廃止のリスクを招く。 <株価維持のためのプレッシャー> ・目先の利益成長と、企業と社会との間にある信頼関係のバランスを再考すべ きだ。強力なリーダーシップや高い目標設定自体が悪いわけではい。それに伴 う暴走を牽制し、健全な企業文化を維持するためのガバナンスが追いついてい ないことが最大の問題だ。中小企業経営ではこのようなワンマン経営者の暴走 は、よくある。そもそも、中小企業経営の現場では、所有者と経営者は同じで あることが多い。株式をほぼ100%所有し、代表権をもっていれば、いわば何 をしても内部、外部からのクレームは起こらない。財務内容に誤魔化しがあっ ても、顧問税理士が指摘することはまずない。監査役もいないことが多い。仮 に、いたとしても形式上の監査役だ。身内や一族が監査役をしているケースが 大半だ。本来の職責を全うするはずもない。 ・さらに、その代表者が創業者で、株式を100%持ち、代表権はその人独り で、取締役も他にいない。借入の個人保証も行い、自宅も担保に入っている。 いわば、全財産を賭けて創業し、企業経営の任に当たっている。ほとんどの創 業経営者は、このような状態ではないか。人事権も当然持ち、採用から給与、 賞与の決定まで、全部自分が掌握している。何をやっても、誰からも何も言わ れない。怖いのは、借入をしている金融機関だけか。金融機関も正常に返済し ていれば、得意先でありお客様だ。悪く言われる筋合いはない。社会的に不正 を働かない限り、道徳的な問題で糾弾されることは、まずない。こういう企業 では、往々にして個人のおカネと会社のおカネが、混同される。お財布がひと つになり、会社のおカネが個人の生活に流用される。 ・ニデックも、創業後は少人数で運営されていた。ガレージで創業し、次第に 事業が軌道に乗り、従業員も増え、売上は増大した。いくつかの段階があった が、売上が1億円、5億円、10億円と増え、得意先も従業員も急激に増加し た。そのうち、資金需要が増え、株式の上場、公開に至った。この時点で、会 社の所有者は不特定多数の一般個人株主になった。一部の株式は創業者の永守 氏が持ったままだが、その他大半の株式は外部株主になり、取締役や代表者の 承認、決算内容の報告と承認など、多くの機会に株主に情報開示が義務付けら れた。業績によって株価は変動することとなった。この株式の公開により、逆 に外部からのプレッシャーが大きくなる。いったん業績が悪化し、株価が下が ると、時価総額がダウンし、企業価値が棄損する。 <カリスマの命令は絶対> ・いったん株式を上場、公開すると、このような外部からのプレッシャーに常 にさらされる。業績が順調で、毎年増収、増益になっていればいいが、経営は 何が起こるか分からない。外部環境の大きな変化で、業績のアップダウンはつ きものだ。ニデックは、この業績の伸長を他社の買収(いわゆるM&A)でカ バーしてきた。日本国内、海外を始め、多くの企業を買収し、グループの傘下 に組み入れた。特筆すべきは、業績が多少悪くても、グループに組み入れるこ とで、経営のスリム化を図り、資金の流れを厳しくチェックし、ムダを極力省 くことで、業績の建て直しに成功した。現場の清掃を徹底し、従業員の不意の 休みをなくすことに注力した。これらは決して間違っていない。その結果、買 収された企業の業績は改善し、収益企業に変身させた。 ・しかし、いつも常勝軍団ではあり得ない。G9の常勝巨人軍でも9年連続で 日本一になったあとは、戦国時代に突入した。企業経営では、確かに売上、利 益は成長のために必要だ。これには異存はない。しかし、何のための成長か、 売上か、利益か、と突き詰めて考えると少し答えは違ってくる。要するに、売 上や利益を挙げること、株式上場の目的は何かと言うことだ。企業価値を最大 化することは間違いではないが、それが最終目的になると、とことん最後の最 後まで、それを追いかけないといけなくなる。売上が1億円を超えたら、2億 円。2億円を超えたら5億円。5億円を超えたら10億円と、次第にハードルは 高くなる。それにチャレンジすることは悪くない。目標は高いほどやる気が出 るはずだ。しかし、目標達成が目的になる。 ・その目標が強烈な絶対命令として現場に降りてくると、どうなるか。達成は 至上命題になり、達成することが目的になる。達成しない、できない人、部 署、グループ、事業所は、ダメという烙印を押される。敗者復活はない。いっ たんダメ出しされると、挽回の余地はない。できなかった理由を冷静に分析し ても、それは言い訳だと断罪される。次回への挑戦も機会がない。敗者復活戦 はない。評価は下がり、ポスト、待遇にも変化がある。そうなると、少し誤魔 化してでも、切り抜けようとするのは人の常か。今回のニデックの最大の問題 は、こういう企業風土、空気、文化にした原因、理由は何かということだ。そ れが創業者でカリスマ経営者だった(敢えて過去形で書くが)永守氏に起因す るというのが常識的な見方だ。誰が見てもそうだろう。 <今さら「正しくやる」のか?> ・野球にはエラーがつきものだ。投手も、毎回ゼロで抑えられるわけがない。 バッターも10回のうち7回は凡打だ。それを全体、集団、グループ、チームで 何とかカバーする。マイナス材料をプラスに変えようと努力する。ニデックの 問題は、そこで不正を働いたことだ。数字を誤魔化し、捏造し、多くの顧客、 株主、市場を騙した。確信犯的な誤魔化しを行った。それが組織ぐるみだった ことが問題だ。そうする、そうせざるを得ない企業文化、風土を作ったのはど うしてだったか。そこにこの問題の核心、本質がある。大企業の行った不正と しては規模が大きい。製品の品質まで、虚偽の作業が行われていたという事実 まで暴露された。正常な意識の社員が大半だったのだろうが、そこまで追い詰 められたのはどうしてだったか。 ・後継者候補者を何人も招聘し、気に入らないということで、何回も首をすげ かえた。ワンマンでカリスマであるがゆえに、誰も逆らえない。「モノ言えば 唇寒し」というフレーズがあるが、まさにそうだろう。不正通報の制度もあっ たのだろうが、形骸化していたか。財務数字の粉飾も、意図的に行われた形跡 が濃い。つまり、集団で行った詐欺行為に近い。最悪、刑事事件に発展する可 能性もあり得る。この大企業の体質を変えるには、相当の時間と費用、エネル ギーと覚悟が要る。簡単なことではない。過去にJALも再生を果たしたが、 いったん破綻の憂き目を味わった。稲盛さんが乗り込んで、まず行ったことは 幹部の意識改革だった。大企業病が蔓延し、危機感がなかった。多数の組合が あり、それぞれがわがままを主張した。組織になっていなかった。 ・中小企業は、規模が小さいから、改革はやりやすい。やりやすいが、トップ の意識次第で簡単に正しくない経営に気が付かないまま行ってしまう。外部か らの牽制、指導、修正、改善はほとんどできない。要は、経営者の意識如何 だ。実態を良く見せようと、お化粧をする。売上数字を糊塗したり、在庫数字 を誤魔化したり、仕入を正しく処理しなかったり、経費の付け替えで不正を 行ったりする。税理士さんが間違いを正すことは、ほぼない。決算書が正しい という保証はない。株式を公開していないから、それでも構わないという判断 がまかり通る。ニデックの企業文化に、今回の不正を受けて、「正しくやる」 という文言が盛り込まれた。上場大企業で、いまさら「正しくやる」という文 言を入れないといけないという実態が危機的だ。今からが修羅場か。