**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1152回配信分2026年05月25日発行 経営者は自分で自社の経営実態をつかむことが大事 〜試算表、決算書ではわからない自社の価値を知る〜 **************************************************** <はじめに> ・中小企業でも、3月末が決算という企業は結構多いはずだ。日本社会全体の 経営年度は、4月に始まり3月末に終わる。大企業はそれに合わせて、4月か ら新年度が始まり、3月末に終わる企業が多い。一部の業界では2月末決算と いう業界がある。流通業界がそれだ。どうしてかというと、2月は28日の営業 日となり1年で一番売上が少ない。売上が少ないということは、在庫も少な い。なので、全体の資産額も少なくなり、総資産回転率、流動比率などの主要 な経営指標の数字が良くなる。というわけで流通業界(小売り大手、百貨店、 スーパーなど)は2月末を決算期にしている企業が多い。それ以外は、ほとん ど3月末が決算だ。5月連休明けから順次決算発表が相次ぎ、おおよそ5月中 にはほとんどの大手企業の決算が出そろう。 ・中小企業の決算期は、まちまちだ。創業設立の時期に合わせて設定されてい るケースが多い。いったん中途半端な時期に決算を設定したが、その後3月 末、あるいは9月末にしている企業も多い。おおよそ、決算期から2か月以内 に決算書ができて、法人税、消費税の申告、納付が行われる。株主総会をほぼ 同時に開き、形式的に開催したことにして、議事録だけを作成し、法務局に提 出する。実際に株主総会を正規の手続きに従って開いている中小企業は、ごく 稀だ。ほとんどの中小企業では、書類を作成し、代表者以下が印鑑を押印し て、それで終わりになる。株主に一族以外の他人が複数入っている場合は、き ちんと開催されている企業もある。しかし、それは珍しい。ほとんどの企業で は、運営は形式的で実質的な討議はないことが多い。 ・決算書も、実際に担当部署の経理部門は大変だが、それ以外の部署はあまり 関心を払ってくれない。もう、新年度もスタートして2か月になり、毎月の売 上、原価、経費、利益、資金収支などが日常の関心事で、野球の試合で言えば もう3回の裏くらいの感じだ。決算の結果は済んだ話しで、決算書の中味を詳 しく分析することはほとんどない。紙かPDFで配られて、それで終わり。代表 者の方も役員の人も、出来上がった決算書を詳しく吟味し、分析し、一定の見 解を得るという作業はほとんどない。しかし、この決算書を作成するのに、毎 月の試算表があり、決算の経理事務作業は相当面倒だ。決算書ができて、税金 の申告書がある。代表者、担当税理士が印鑑を押印し、税務署に提出する。こ の作業に相当なエネルギーと時間、費用がかかっている。 <決算書の数字に興味を持たない> ・出来上がった決算書の数字で、経営陣が一番注目するのは売上、粗利、利益 だろう。失礼ながら、それ以外の数字にはあまり関心がない。あと、あるとす れば借入金か棚卸資産(主に在庫)の数字くらいか。しかし、よく見て欲し い。売上の数字は、年間の合計額で、それも多くの種類の売上の総合計の金額 だ。商品別、得意先別、店舗別、地域別など、経営判断に必要な数字はどこに もない。また、得意先の業界別ではどうか、昨年と比較した増減なども、全く 記載がない。仮に、それを知りたいとすれば、経理会計ソフトから抽出できる かもしれない。しかし、それには得意先の業種別や地域別などの事前のデータ 登録が必要だ。あるいは、登録コードで分類するか。とにかく、経営上必要な 情報は決算書にはほとんどない。なので、あまり関心がない。 ・探しても見つからないので、手元で把握するしかない。自分たちで、売上管 理ソフトから何らかの作業を加えて、抽出、加工し作成する。作成しただけで はダメで、その資料を分析しないといけない。分析の結果、一定の仮説を導き 出す。おそらく、こうなった原因はこれではないか。売上が増えた、減ったの は、この得意先の売上が大きく伸びた、減ったからだ。では、どうしてそう なったか? これは、意外と難しい。ただただ、その企業からの注文、発注が 増加、減少したことはわかる。それ以上の理由は分からない。発注先にそこま での情報を公開、開示してくれる企業は、よほど親しく、関係が強固でない と、わからない。知らせる義務もない。かくて、どういう理由か分からないま ま、大きな受注が増えたり、減ったりする。 ・一般大衆が直接消費する消費財を製造、卸売りする企業の場合は、なんとな く傾向は把握できる。特に、食品などは、日々の生活に直結しているからリア ルタイムに消費傾向がわかる。気温、天気、イベント、人の動き、休日のめぐ りあわせなど、多くの要素、要因があるが、総合的に判断できる。分からない のは、産業用資材を製造する企業だ。金属部品、素材資材、電子部品、樹脂製 品などは、いったんさらに川下の製造業、加工業の企業に納品される。そこか ら、また加工されたり、組み立てられたりして、最終の製品になる。その複雑 なサプライチェーンのごく一部を担っている。なくなると困る部品、部材では あるが、最終的には複雑に加工されたり、組み立てられたりして、完成製品は 分からない。自動車か、ロボットか、医療用機械か。 <経営数字をどう比較し分析するのか> ・金融機関と融資の交渉などをする際には、必ずと言っていいほど、試算表や 決算書の提示、提出が求められる。試算表は途中経過だから、あまり子細には 実態は分からないはずだ。在庫、仕掛品、棚卸資産などの数字は、必ずしもそ の時点の実態を表しているとはいえない。建物、機械などの償却資産も、減価 償却が適正に処理されているとは限らない。賞与なども、引当金処理をきちん としている企業は少ない。決算書は年に1回だから、3月末決算の企業で、10 月の途中業績は試算表でないと分からない。しかし、その試算表も途中経過 だ。2学期の中間試験の結果でその学年の成績を判断するのと似ている。そう なると、何が企業の実力なのか、何が企業の実態を正確に反映しているのか、 そういう指標はないのに等しい。 ・大企業で上場している企業は、原則四半期3か月ごとの業績開示、見通しの 公表が義務づけられている。しかし、株式を公開していない中小零細企業で は、当然その義務はない。何が正しいかという数字の指標はない。監査機関か らの監査もない。あるのは、経営者、代表者の頭の中にある数字に近い情報 だ。これは、意外と?正確だ。うまく指標に置き換えて説明は難しいが、大局 的な判断、見通しは、おおよそ当たっていると思われる。これが間違っていた り、出来ない経営者はその資格がないと言わざるを得ない。営業部門や製造部 門の責任者からの日々の情報は、現場のなまの声だ。今なら、原材料の調達状 況、得意先の動向など、大事な情報は的確にトップに上がっているだろう。そ こから、どう判断するかは経営者自身の能力、経験に依る。 ・それが数字に落とし込まれているのが事業計画のはずだが、これがきちんと できている企業は非常に少ない。まず、そもそもそういう計画がない。あって も、2年前に作成し、その後何らの修正、加筆もされていない。相当現実と乖 離している。組織、人員、社員の内訳も、相当その後変動している。しかし、 計画はそのままだ。昨今の中東での戦争のリスク、影響も当然反映されていな い。そうなると、現実は計画と大きく乖離している。あまりに差が大きくなる と、計画そのものが無意味になる。修正しようと思うと、相当の労力、時間、 エネルギーがかかる。組織内の人の動き、変化も激しい。営業事務の女性が中 途退職するのはまだいいとしても、営業部門の幹部が個人の事情で依願退職し たり、健康問題で休職したりする。そういうことは、ままあるのだ。 <経営者自身の努力が必要> ・決算書でも、試算表でもわかりにくい。まして、計画対比では判断がつかな い。そうなると、前年対比ではどうか。消費者が消費する商材を扱っている事 業では、前年対比はひとつの指標だ。昨年同月と比較するのがいい。商材別、 得意先別、地域別など、いろいろなファクター(要素)で分解できる。これも 試算表ではわからないから、自分自身で決めるしかない。自分の企業を管理、 コントロールする指標を決めておく必要がある。損益では何か。売上はもちろ んのこと、売上の中味、内容の何を問題にするのか。原価では何か。経費の中 でも重要なものは何か。人件費はどのように管理、マネジメントするのか。損 益はまだわかりやすい。資産と負債は難しい。実感がない。しかし、管理上は 資産と負債は極めて大事だ。 ・ほとんどの中小企業で関心があるのは、在庫などの棚卸資産、借入などの金 融債務くらいだろう。それ以外の指標は無関心だ。資産全体である総資産の金 額は、ほとんどの経営者は関心がない。まして、総資産回転率や自己資本比率 などの数字は覚えていない。総資産の金額は人間で言えば体重に当たるので、 身長に対する体重の割合(いわゆるBMIの値)が増えてくると走るスピードが 遅くなる。現預金が増加して、総資産が増えるならまだしも、売掛金、棚卸資 産、不要不急の固定資産などが増えて総資産が増えると、回転率は悪化する。 事業のスピードが落ちて、ガソリンの燃費が悪くなる。体重を減らす努力をし て、スリムにならないといけない。体重を毎週測るのと同じくらい、会社の資 産=体重を管理しないと、すぐにメタボになり、慢性疾患にかかる。 ・要するに、自身の健康管理と同じように、会社の健康診断を自主的にしない といけない。血液検査、尿検査、肺のレントゲン、胃カメラ、心電図、便検査 など、定期健康診断にはいろいろな項目がある。自分の会社も、それを決めて おかないといけない。毎日、毎週、毎月、四半期ごと、半年ごと、1年ごとに チェックする項目は何か、それは何を意味するのか、比較するのは何と何を比 較するのか、率なのか絶対値の額なのか。これは、誰も教えてくれない。税理 士さんも会社経営は素人だ。先代や先輩経営者、友人や知人、支援機関などの 専門家などから、貴社の規模と業界、業態なら、こういう指標が大事だと教え てもらって、理解する。腹落ちする必要がある。そこまでやらないと会社の真 の姿、実力は分からない。経営者の責任だ。