**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1149回配信分2026年05月04日発行 物価高の犯人は円安 〜円安で日本国はどんどん貧しくなった〜 **************************************************** <はじめに> ・「円」の価値が凋落し続けている。いくつかの評論を勉強したところ、核心 を突いたレポートに出くわした。以下、少し引用させていただく。そのレポー トでは、国際決済銀行(以下BIS)によると、通貨としての総合的な実力を示 す「実質実効為替レート」は今年3月時点で66.33(2020年を100とする)と、 統計が始まった56年前(1970年=昭和45年)の水準を大きく下回った。海外か らモノやサービスなどを「買う力」が失われ、食料や原油など輸入品の価格高 騰を招いている。原油の輸入が停滞し、それでなくても少子化、高齢化で日本 国自体のポテンシャルが低下することが言われている最中で、世界からの評価 は一歩先んじて厳しい値を示している。日本はどんどん貧しくなっている。嘆 かわしい状態だと言わざるを得ない。 ・「実質実効為替レート」とは、対ドルの円相場など特定通貨間の為替レート とは異なり、多数の通貨の中で相対的な実力を測る指標。他の国より物価上昇 率が高ければ上がる特徴があり、円の実質実効レートは1995年(平成7年)に 現在の約3倍に当たる最高値を記録した。それ以降、ピーク後は日本経済や物 価の長期低迷とともに低下が続いてきた。低金利でドルやユーロなどに対して 円安が進んでいることも拍車を掛けた。バブル経済が崩壊し、金融機関の破綻 が相次ぎ、金融庁の不良債権処理が加速した。続いて起きたリーマンショック でさらに日本経済は、壊滅的なダメージを受けた。それ以上の金融機関の破綻 を防ぐため、当時の亀井大臣の号令で不良債権処理が急ピッチで進められた。 銀行の合併統合が急速に進んだ。 ・集計が始まった1970年のレートは75近辺だった。当時は1ドル=360円の固 定相場制だったが、現在はこの水準も下回っている。一部の識者は低迷の要因 について、「少子高齢化を背景に進む国力の低下である可能性が高い」と分 析。外国為替市場では、対ドルの円相場が3月に一時160円台半ばまで下落。 円の弱さはユーロや人民元など多くの通貨に対しても顕著で、実質実効レート を押し下げている。この為替水準では、インバウンドで日本に来る旅行者は非 常に得をした気分になり、逆に海外に出ていく日本人旅行者は、このレートで 海外において食事をし、買い物をすると愕然となる。つい先日も、イタリアに 旅行した知人がこぼしていた。とてもまともな食事ができないと。びっくりす るくらい高くつく。海外にでかける人が減っている。 <円安は産業構造の転換が遅れたから> ・高市政権が発足した昨年10月時点のレートは70.81で、半年で約6%低下し た。積極財政路線による財政悪化の懸念などで、円が売られたことが一因だと みられる。実質実効レートは、BISが約65カ国・地域の為替レートや貿易量、 物価変動などを考慮して算出している。低下は輸入品価格の上昇を通じて家計 や企業に負担となる一方、外国人旅行者にとっては日本のモノやサービスが割 安となる反面、日本の輸出企業には競争力強化につながる側面もある。現状の 物価高の主たる原因は、この為替レートの問題という指摘が多い。原材料の90 %以上、食料品の60%以上を輸入しているわが国では、輸入する多くの原材 料、食品がどうしてもこの為替レートでは割高になる。原材料の値上がりにつ ながり、物価高の原因になる。 ・円の実効レートが半世紀前の固定相場制時代を下回ったということは、単に 通貨安という現象ではないはずだ。日本経済の構造的な購買力の喪失につな がっている。かつての円安は、輸出を伸ばし、国を富ませたが、現在はコスト プッシュ型の物価高を招き、国民生活を圧迫する重荷へと変質している。この 凋落の背景には、日米金利差という表層的な要因と、少子高齢化に伴う潜在成 長率の低下、そしてイノベーションの停滞による稼ぐ力の衰退がある。特に、 高市政権下の積極財政への懸念が、通貨の信用度を毀損させていることに、結 果的になっている。この通貨安は、富裕層や輸出企業への富の偏在を促す一 方、実質賃金が伸び悩む労働者層や零細企業に過度な負担を強いる格差を拡大 させているのではなかろうか。 ・必要なのは、為替への介入や金融政策の微調整ではなく、産業構造の転換を 加速させることだろう。高付加価値なサービスや製品で、外貨を稼げる経済体 質へ脱皮することだ。 通貨価値は国力の鏡というが、この56年前の事態への逆戻りを、日本が真の構 造改革に踏み出す警告として捉えるべきだ。しかし、それには時間がかかる。 簡単に産業構造の転換といっても、戦後から脈々と築いてきた日本流のビジネ スモデルを、そう簡単に転換することは容易ではない。これは何も製造業に限 らない。一次産業である農林漁業も、第三次産業である卸し、小売り、サービ ス業にも共通に言えることだ。また、人材の流動性を高め、IT産業を担う人材 も必要となる。ようやく、教育課程に小学生からの英語教育やプログラミング の授業が始まった。 <企業の淘汰は自然現象> ・中小企業の取組は、大きく格差がつく展開になっている。平成12年、2000年 の法律改正で、それまで等しく、あまねく均等に中小企業の振興策をやってき たが、ここで大きな転換が図られた。つまり、頑張ろうとする企業には手厚 く、手を挙げない企業には恩恵が行き届かないという方針に転換した。補助金 制度も拡充され、手を挙げて承認されれば手厚い補助金が支給される。しか し、手を挙げない企業には、素通りになる。この方針転換は間違っていなかっ たと思われる。事実、これらの補助金で大きく業績を伸ばした企業は多数あ る。成岡は一部の補助金の審査員をしていたので、実態はよくわかる。ただ、 同じような企業に集中したという感じはぬぐえない。申請書の内容も、小規模 零細企業ではハードルが高かった。代行する業者も現れた。 ・しかし、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナパンデミックと5 年おきくらいに起こった想定外の事態に、この方針が揺らいだ。政府保証の緊 急融資がほとんどノーマークで行われた。それまでに経営が困窮していた企業 が、結果的に本来の目的ではなく救済された。この緊急融資で生き延びた企業 は多くあったが、果たしてまかれた膨大な政府保証融資は生きたのか。結果 は、イエスとは言えない。それまでの別の原因で、潰れても仕方ない企業も、 等しく、あまねく生き残った。トリアージ(選別)はされなかった。日本国民 は農耕民族の出自であるので、村の誰もが生き残れるという施策を選択した。 欧米の狩猟民族のDNAとは違う遺伝子が作用した。その結果、依然として300万 社になる企業が生き残っている。 ・後継者問題も、一時騒がれたが、徐々に落ち着きつつある。生き残る価値が ある企業や事業は、誰かが引き継ぐ。逆に、魅力がない、時代にそぐわない企 業や事業は自然淘汰される。恐竜はその図体の大きさから、氷河期に絶滅し た。しかし、小さな動物は生き残った。過去の一時期、企業規模は大きいこと が存在価値だった。現在では、企業規模、従業員数より、付加価値額、利益 率、資産に対する回転数、自己資本に対する利益率など、価値観が変遷しつつ ある。小規模でも、付加価値が高く、少数でも尖った企業が時代にマッチして いる。少子高齢化が急激に進むわれわれ日本国では、今後規模の大きさを追求 するビジネスモデルは、早晩行き詰る。マーケット=顧客=市場が拡大しない のだから、仕方ない。古い価値観は捨てるべきだ。 <物価高の根本原因円安是正に取り組む> ・為替の妥当なレートがいくらであるかは難しいが、個人的には120円前後で はなかろうか。根拠は希薄だが、感覚的にはこの近辺の数字ではないか。しか し、産業構造の転換には、最低でも20年はかかる。2050年くらいを目標にする くらいの時間的な感覚だ。では、世間が、周囲が、そこまで待ってくれるか。 2050年には総人口は1億人を切るだろう。海外からの労働力の補充では間に合 わない。人型ロボットの開発、導入も進むだろうが、中国の驚異的なスピード には追い付けない。自社の付加価値を上げるには、じっとしていては難しい。 今から積極的に将来に向けた投資を継続的にしていかないといけない。投資の ポイントが散漫になると、投資対効果が薄れる。中小企業は資金余力がないか ら、焦点を絞って重点的に投資しないといけない。 このままだと、円安と中東問題での原材料の高騰はコストアップの大きな要因 になる。原材料が値上がりしても、人件費が高くなっても、得意先が値上げを 認めてくれるだけの価値があれば、しぶしぶか、泣く泣くかは別にして、末端 価格のアップは通るはずだ。こちらの意向が無視されるなら、逆に、それは自 社の生み出す製品に価値がないことになる。付加価値の高いビジネスモデルな ら、それは富を生み出し、企業の価値を高め、産業構造の転換に少なからず寄 与する。円安の原因は、平等に補助金をばらまいたことにもある。退出するべ き企業は、高い付加価値を生み出す企業に吸収される方式を取るべきだ。規模 に関係なく、市場が評価する企業は売上の大小に関係なく、高い収益を挙げて いるはずだ。こういう企業が生き残るべきだ。 ・昭和40年代から続いた高度経済成長が終焉に至り、バブル経済が破綻した時 点で淘汰が起こり、リーマンショックでさらに新陳代謝が生まれたにも関わら ず、企業数は300万社を超える水準で推移した。コロナパンデミックで多額の 補助金があまねくばらまかれ、ムダな資金が投下された。市場に大量の現金が 流れたことで、通貨の価値がどんどん下がった。国の借金も膨大に増え、国際 的な信用も低下した。人口減少が止められないことを前提に、不都合な真実と 真摯に対峙する姿勢がない。選挙で当選することのみにエネルギーを注いでい る人が国の政治を担当する資格はない。物価高の根源である円安の是正が最優 先だ。食料品の消費税がゼロか1%か、などを検討している時間はないだろ う。課題認識が間違っている。