**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1144回配信分2026年03月30日発行 金融機関は得意先企業の事業内容はよく分かっていない 〜理解してくれていると思うのは錯覚〜 **************************************************** <はじめに> ・真面目な経営者でも、確たる方針がなく、ベンチマークする指標を持たず に、ただ売上、利益のためだけを考えて行動すると、迷路に迷い込み、行く方 向がわからなくなり、気が付けば大変な状況に陥っていることが、よくある。 親しい友人や知人からの持ち込み案件に乗ってしまうケースが多い。これをや ればうまくいく、儲かると、案件を持ち掛けられ、つい、あまり考えずにずる ずると投資、借金を重ねる。借入をするからには、融資の申込書を書いて金融 機関に提出しているはずだ。当然、金融機関は審査をして、その融資の妥当性 を検証している。審査は、まず担当者が行い、所属支店の上長が行い、支店長 の決済を受ける。さらに、金額が大きい場合やそれ以外の特殊な事情がある場 合は本店の担当部署での審査になる。 ・事業への投資に対する融資だから、何らかのリスクは伴う。それを回避する ために、金融機関は物的な担保の提供を求める。代表者の個人保証を求める。 あるいは、融資への保証として信用保証協会の保証をつけようとする。つま り、金融機関としての融資に対するリスクヘッジだ。すでに多くの借入をして いると、もう提供する担保物件もない。保証協会の保証枠もいっぱいだ。こう なると、金融機関はその融資申し込みに対し非常に慎重にならざるを得ない。 すでに、過去からの借入は多額で、これ以上の借入は常識で考えると難しい。 しかも、今回の融資の申し込みは設備投資ではない。新しい事業に対するス タート資金の融資だ。返済期間は5年。果たして、この事業計画で5年のうち に返済できるだろうか。大いに疑問だ。 ・金融機関は、既に終わった過去の数字に対する評価、分析は相当優れてい る。多くのデータを保有し、最近ではAIの活用も進んでいる。該当企業の決算 書のデータも数年分は入力されており、多くの財務指標の数字もはじき出され ている。これからみると、今回の新しい事業への融資は難しいと言わざるを得 ない。担当者としては非常に悩むところだ。企業の事情を斟酌、忖度すれば融 資に応じてあげたい。代表者ともこの数年親しくお付き合いさせてもらってい る。人柄は悪くないし、愛想もいい。何より、真面目に一生懸命やっている。 そこには好感は持てるが、こと企業経営となると別だ。今回の融資案件は、ど うも本人が考えて、考えて、行き着いた案件ではない。誰か、親しい人からの 持ち込み案件のようだ。 <融資する事業を始める理由が不透明> ・代表者にその事業を始めるにあたっての矜持、覚悟が感じられない。ただ、 おカネが儲かりそうだ、売上が上がりそうだ、それだけだ。事業の目的、意義 などは聞いていても、ほとんどわからない。どうして、その企業がその事業を 始めるのかが、理解不能だ。たまたま、いい場所に空き店舗があった。知人が 持ち込んできたビジネスがその店舗にマッチしているという理由だけだ。従来 と関係ない事業に、これだけの借入をして、融資を受けようとする。事業計画 では5年で返済出来ると書いてある。しかし、どこにもその事業に対し、その 企業が持つノウハウ、強みを活かせるフィールドがない。対象顧客、市場も全 く無関係だ。既存の事業との相乗効果も期待できない。離れ小島のような、ぽ つんと一軒家になりそうだ。 ・しかし、数週間ののち、この融資案件は稟議が通り、融資が実行された。そ の時点で、既に売上の2倍以上の借入があったのだが、メインバンクは融資を 承認した。ただ、担保もなければ保証協会の保証も枠がなくつけられなかった ので、金利は非常に高かった。通常の融資の3倍以上の金利だったが、代表者 はとりあえず融資が下りたことに安堵した。この融資が実行された理由、経過 はわからない。しかし、借りたらあとはどうなるかは、やってみないと分から ない。案の定、この案件のスタートには思いのほか新規設備が必要で、融資金 額のかなりの部分は開店までに使われた。結局、開店時点での運転資金は融資 総額の2割もなく、1年経たないうちに資金繰りに行き詰った。思いのほか売 上も伸びなかった。計画とはかけ離れた結果になった。 ・結局、無理矢理通した融資案件だったが、借入が増え、赤字が累積し、撤退 費用もかさみ、終わってみれば借入が売上の3倍近くに増えただけだった。赤 字は増え、債務超過は拡大し、翌年には返済停止に追い込まれた。金融機関が 甘かったのか、計画が杜撰だったのか、経営者に能力がなかったのか、運がな かったのか、それは分からない。しかし、融資分の借入が増え、さらに赤字が 増大し、経営がピンチになったことだけは確かだ。経営は結果がすべてだ。言 い訳は通らない。しかし、もっと手前でこの融資案件を停める手立てはなかっ たのか。そう簡単に融資審査が通ったわけではないだろう。金融機関も慎重に 審査したはずだ。普通、常識で考えればおかしい。赤字の挽回を目論んでの新 事業だったのか。 <金融機関は事業の中身がわからない> ・意外とメインバンクでも、その企業の事業内容を子細にきちんと把握してい ないケースは多い。業種、業界にも依るが企業ごとの事業内容の正確な把握は 難しい。昔の様に、単純な事業内容ではない場合が多い。一昔前で商店街の普 通のお店ならおおよその事業内容は理解できた。しかし、昨今では小さな店舗 でもいろいろなルートでの売上がある。実店舗、イベントでの売上、ネットで のWEB売上、出店バザールでの売上、外商的な売上など、多くの販売チャネル がある。それ以外に、所有する賃貸物件の家賃収入や土地からの地代収入など がある。雑収入には助成金や補助金などもある。これらの本業以外の収入が結 構多いので、実態がよくつかめない。本業では赤字だが、最終は黒字になって いる場合もある。 ・売上の中身がよく分からないので、対応する原価もよく分からない。仕入れ の金額は正しいだろうが、棚卸資産の数字が本当に正しいかは不透明だ。経費 の内容もいちいち子細にチェックできないので、過去の実績と比較するしかな い。人数からすると、まあこれくらいかと想像するしかない。役員報酬は多額 だが、クレームをつけるほどでもない。製品ごとの製造原価は分からないの で、多くの製品の中では赤字の製品もあるだろうし、永年同じ金額で受けてい る仕事もあるだろう。逆に大きな利益を出している製品もあるはずだ。しか し、試算表と決算書、附属明細書と申告書では、実際の内容は実は把握できな い。この書類に加えて代表者の事業内容の説明など、定性的な情報を加味し て、企業ごとの情報ファイルが出来上がる。 ・経営数字で把握できる情報以外の部分は、実は非常にあいまいであり、少な い。後継者の情報は少ないし、細かい家族構成は分からない。役員や株主はあ る程度の情報はあるが、それ以上に踏み込んだ内容はない。信用調査会社の情 報の方が詳しい場合が多い。しかし、いずれにしてもすべては過去の数字だ。 終わった試合の結果だ。未来に対する情報は非常に少ないし、乏しい。皆無に 近い。融資の申し込みは未来に対する資金需要だ。未来にどのような絵を描い ているのか、代表者の頭の中のイメージはどうか、などの将来ビジョンは分か りにくい。おかれている業界の未来は明るくない。どちらかと言えば衰退産業 に属している。挽回したという気持ちはわかるが、どうしてその事業に進出す るのか分からない。 <金融機関も担当者がよく異動する> ・従来使用していた設備機械の更新なら、まだわかりやすい。古くなり故障頻 度が最近多いので、しばしばラインが止まる。効率が悪いので、新しい機械に 買い替えたいという。そういうケースなら融資の理由は明快だが、今回の融資 内容は設備の更新ではない。新規の事業への進出、投資だ。そのための資金調 達だ。融資に対する反対語は返済だ。返済するには、返済の原資、資金が生ま れないと難しい。従来の事業の延長線上ならまだわかるが、今回の事業は従来 の事業との親和性が少ない。また、新規の事業を誰が担当するのか分からな い。代表者が兼務するのだろうか。代表者にその分野の経験や知識は乏しいは ずだ。既存の社員でその分野にノウハウを持っている人はいない。しばらくは 代表者が担当するのだろうか。 ・金融機関も積極的に断る明快な理由が見つからない。メインが断れば、サブ の金融機関に話しを持ち込むだろう。そうなると、メインとサブの割合が逆転 する。事業内容はよく分からないが、それを理由に融資を断るわけにもいかな いという消極的な理由で、融資案件は支店の決済が下りた。数年経過し、担当 者も異動転勤があり、次の担当者が引継ぎのファイルを見ても、事業内容が腑 に落ちない。どうしてこの案件の融資稟議が承認されたのだろうか。当時の事 情がわかる支店長、次長、担当者も全員異動していない。仕方ないので、企業 の代表者に面会を申し込み、事業内容を子細に把握しようと思っても、会話の 中身がちんぷんかんぷんでよくわからない。現場を見せて欲しいと思ったが、 今の段階では見てもよく分からないだろう。 ・非常に不安だが仕方ない。世間で馴染みのない製品を製造しているので、説 明を聞いても分かりにくい。品種も多く、材料の在庫、製品の在庫、仕掛品も 結構多い。多くの製品の個別の製造原価は、本当のところは分からない。最終 の得意先は開示してもらっていないので、製品が最終的にどこに使われている のか、よくわからない。製造技術も少し特殊なので、専門用語が理解できな い。ないないづくしで、とうとうあまりよく理解できないままになってしまっ た。実はこのような融資先企業が結構多い。結局、つまることころ、金融機関 はおカネを貸して回収するだけになる。本当に事業の中身を理解して、本業支 援、伴走支援ができているのか、疑わしい。事業の中身を理解するために、ど うしたらいいのか、いまだに宿題ができていない。