**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1142回配信分2026年03月16日発行 立ち直るかニデック 〜永守イズムからの脱却は容易なことではない〜 **************************************************** <はじめに> ・ここ最近では京都で一番の出世頭だった旧日本電産、現在のニデックが大揺 れに揺れている。おおよそ事前に予測できたことだが、先日発表された第三者 委員会の報告で、創業者永守氏の責任が最大であると発表された。これに先立 つこと数日前に、当人から一切の役職を辞任することが表明され、自身のコメ ントを発表し、表舞台からひっそりと去った。報告書の公表前に敵前逃亡した と揶揄された。確かにその通りだ。以前の代表者を辞任した時もそうだった が、今回も釈然としない。自身に大きな火の粉が降りかかる前に安全地帯に逃 げ込んだと言われても仕方あるまい。これほどの経営者が、晩節を汚すような 辞め方はよろしくない。正々堂々と、事実を認め、謝罪し、反省の弁を述べ て、責任を全うするべきだろう。 ・背景はメディアや新聞、TVなどで報道された通りだ。会計上の不正は数えき れないくらい多数に上り、処理のために膨大な損金が計上される。10年以上前 から続いていたという事実もあるようで、真相はやぶの中だ。原因は、創業者 の永守氏の売上、利益至上主義。赤字は悪だとの信条から(確かにそう言えな いこともないが)、周囲が忖度、斟酌を重ねて、会計上の不正を積み上げた。 事業が赤字になりそうだと思えばそれを隠し、買収した企業で損が出そうだっ たらそれを糊塗し、予算未達になりそうなら売上を先取りした。こういう不正 は、成岡自身も経験があるが、一度始まると泥沼になる。ウソは泥棒の始まり との格言もあるが、数字の不正を始めると、また次の段階でそれを正当化する ために誤魔化しが続く。 ・営業、経理など多くの部門にまたがり不正が横行した。正直に数字を出す と、烈火のごとく怒られる。場合によっては担当者の首が飛ぶ。以前、外部か ら招聘した後継者と目される方が、株価を下げたという理由で馘首され、社外 に追放された。そういう現実を目の当たりにすると、担当者が委縮し、数字を 糊塗する気持ちも分からないでもない。親分に一度睨まれたら終わり。そうな らないように、事実を歪曲し、真実を隠し、数字を誤魔化し、現実を歪める。 トップは、偽った数字の報告を受け、取締役会が承認し、株主総会も通過す る。それで株価が維持され、配当も継続される。しかし、現実は相当な不正が 行われていた。報告書の詳細は承知していないが、確信犯的な数字の隠蔽が あった。今回のトラブルで無配になった。 <中小企業はどこもワンマン> ・50年前に数名の社員と共にガレージで創業した企業が、世界的な大企業に成 長した。その過程で、猪突猛進、頑張ることがいいことで、赤字は悪であり、 24時間365日フル稼働することがミッションだった。創業メンバーはそれで共 有されていたが、規模が大きくなり、次第に創業時のパッションは維持できな くなった。階段の踊り場に来るたびに、次のステップに進む新たな企業文化が 必要になる。しかし、ニデックは売上、利益至上主義で突っ走った。1兆円と ぶち上げ、達成すると、次は2兆円になった。創業者でカリスマと称され、最 大の個人株主で代表権や人事権のあるトップの号令は絶対だ。反抗すれば絞首 刑(大袈裟な表現だが)もあり得る。誰も諫言できないし、反対もしない。立 ち止まることは許されない。 ・創業者でワンマン経営者の企業では、よくあることだ。特に中小企業では、 日常茶飯事だ。朝令暮改などは朝飯前。朝の指示は、午後にひっくり返り、夕 方にはまた訂正される。金曜日の夕方に、明日休みの土曜日が突然出勤日にな る。給料やボーナスはトップの一存で決まる。管理職への昇格、登用などもワ ンマン社長のツルの一声だ。人数も20名に満たない小規模な事業所なら、社員 全員もそれで疑問を挟まない。どうせ言っても仕方ないと諦めている。現在の 社長が創業して40年、30歳台後半で創業し、艱難辛苦を乗り越えてここまで来 た。会社が人生のすべてであり、全財産を担保に入れて命がけで事業を行って きた。社員もそれをわかっているから、強権発動であっても誰も文句は言わな いで静かにしている。 ・以前、この状態にクレームを唱えた骨太で優秀な若手社員がいたが、嫌気が さしてすぐに退職して、別の企業にさっさと転職した。現在の社員は、黙って ワンマン社長についていく。誰もおかしいとも言わないし、言ってもムダと諦 めている。創業家一族が株式の100%を保有し、代表権を持ち、借金の個人保 証もして、全財産を担保に提供し、事業を行っているということを知っている から、誰一人代わることができないことを、十分承知している。人事権も、給 与の査定も、賞与の決定も、全部社長が一人でやっている。できるとすれば息 子さんだろうが、息子さんは社業と関係ない業界に就職し、実家を離れ、家業 へ戻るつもりは全くない。この企業も、今の社長一代で終わるのだろうか。従 業員が承継できる環境にはない。 <永守氏が直接語ることが必要> ・カリスマ的なワンマン社長のすべてが悪いとは思わない。ある程度の規模ま では、集団で意思決定はできない。民主主義で企業は運営できない。ときに は、「カラスは白い」と、堂々と言わないといけない場合もある。しかし、こ れは敢えてわかって言っているのだ。深刻なのは、事実が分からないことだ。 あるいは、確信犯的に、犯してはいけない領域にまで踏み込むことだ。麻薬で はないが、一度手を染めると抜けられない。業績をお化粧、ドレッシングする ために、一部の数字を歪曲する。中小企業で最も多いのは、在庫、棚卸の数字 を誤魔化すことだ。期末や月末の棚卸の数字を多く見せることで、その分利益 が計上される。少し、棚卸の数字を水増ししただけで、赤字が黒字になり、金 融機関に提出する書類が立派になる。 ・他にも減価償却費を誤魔化すなど、多くの手法があるが、今回それを詳述す るのが目的ではない。大事なことは、社内、社外に、真っ当に経営者にモノを 言う人材がいないということだ。ニデックもそうだった。外部から招聘した幹 部人材への永守氏からの叱責メールを見たが、これはもう「クビ」と言われて いるのも同じだ。恫喝であり、脅迫であり、人事権の乱用に近い。招聘した本 人からの叱責だが、その人物を招聘し、そのポストに就けたのは永守氏だ。任 命責任を棚に上げて、本人の責任のみを追及する。これを繰り返し、招聘した 人材が毎回社外に去り、誰も後継者として承認されない。一種大袈裟に言えば 恐怖政治であり、世界的な上場企業でこのようなコンプライアンスがまかり通 ることがおかしい。 ・しかし、おかしいと分かっていて、誰も異を唱えなかった。いや、唱えるこ とが許されなかった。多くの取締役もいたし、経理内容を監査監督する監査 役、会計監査法人もいた。しかし、永年このような不正がまかり通った。どこ でも、少々の間違いはあるものだが、これは確信犯的な犯罪に近い。世界的な 上場企業が、永年においてワンマン経営者への忖度で財務数字を糊塗していた というのは、許される話しではない。現社長が数か月間報酬全額を返上すると 表明したが、それだけでこの信用、信頼が回復するものではないだろう。やは り、辞めたとはいえ、根本原因を作った永守氏本人の説明、弁解、反省、お詫 びなどを直接述べることが必要だ。紙きれで表明したコメントでお茶を濁すの はいけない。信頼回復にはそれしかない。 <山岡荘八の徳川家康は勉強になる> ・中小企業ではどうすればいいだろうか。ひとつは、数字を可能な限り公表す ることだ。売上、原価、粗利、経費、利益だけではない。在庫や固定資産、そ れに見合う借入金などの数字を公表することだ。公表しなくてもいいのは、各 個人の個別の給与や賞与くらいだ。ただ、公表だけをしても意味がない。経営 者自身が、その数字の意味、変化、割合、重要な視点などを解説できる力を持 たないといけない。単に数字をオープンにすればいいというものではない。事 前の学習が大事だ。次に、幹部、役員の人材登用に注力する。特に、営業、製 造、経理の3部門のトップは重要だ。この幹部にイエスマンを置いてはいけな い。特に、経理部門には社長に忖度しないだけの腹の据わった人材が必要だ。 社長にノーを言える人材だ。 ・少し規模が大きくなると、役員や顧問などに、有用な人材を据えることが大 事だ。しかし、小規模な中小企業にそう簡単に有用な人材を迎えることは難し い。大事なのは、お友達ではない。耳障りの言いことを言ってくれる親友では ない。逆に、厳しいことを言ってくれる辛口の人がいい。そういう意味で、失 礼だが税理士さんは役に立たない。試算表や決算書を作成するだけで、有益な アドバイス、アラート(警鐘)がない。辛口の諫言をすると、顧問契約を切ら れるとでも思っているのか、黙って資料を作成し届けるだけだ。何ら、問題点 の指摘もなく、改善や改革のヒントもない。形式上設けている監査役も形骸化 している。まして、身内が就任しているならなおさらだ。耳に痛いことを言っ てくれる人材は、ほぼいない。 ・また二度目、山岡荘八の「徳川家康全26巻」を読み返している。今川との確 執、織田との同盟、武田との戦い、秀吉との和睦、関ヶ原と大坂の陣など、多 くのがけっぷちでの家臣団との軍議の内容が非常に面白い。譜代の子飼いの家 臣連中は、各自が各自で意見を堂々と言い合う。遠慮もなく、思うところを述 べ合う。間違ったら、戦場で討ち死にするから必死だ。家康は全員の意見を言 わせて、最後に決断する。反対意見の者もそれには従う。親方に意見を聴いて もらったうえで決断した決定だ。異論はあるが、組織で戦うのだから、それに は従う。このやりとり、誰がどう言ったなどの描写が素晴らしい。決して、ワ ンマンの独善、独断ではない。このマネジメントから学ぶものは多い。ニデッ クと好対照だ。非常に勉強になる。