**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1140回配信分2026年03月02日発行 真面目にやってきた中小企業経営者が見落としたこと 〜自分で決めた経営数字に対するルーティンがない〜 **************************************************** <はじめに> ・真面目に日々努力しているからといって、経営状態が良くなるとは限らな い。必要条件ではあるが、十分条件ではない。一生懸命はいいが、努力する方 向が間違っていたらダメだ。ゴルフでアドレスが少し右を向いていても分から ないまま、ティーショットを打つのと同じだ。プロのゴルファーは、このアド レスの間違いをしないため、必ず行う動作を決めている。こういう動作をルー ティンと称する。ボールを置く位置を決め、その先の打つ方向に何か目印を決 める。落ち葉でも芝の目印でもいい。そしてその目印にまっすぐクラブフェー スを合わせる。打つ前の動作が決まっている。どんな状況であれ、ボールの状 態であれ、決めた動作は必ず行う。その都度、変えない。一流のプロは各自が それぞれのルーティンを作り上げている。 ・イチローも大谷も、打席への入り方は決まっている。ピッチャーの山本も、 先発のときの試合への入り方は決まっている。何時間前に球場に行き、いつブ ルペンに入って、どういう準備を行い、試合に入るかは決まっている。登板の ない日の練習や疲労回復の方法も決まっている。中小企業の経営者も、経営者 としてのルーティンを決めておかないといけない。特に、忙しいときほどルー ティンを大事にする。多忙を理由に、決めた手順や工程を変えない。月末の会 議は、どんな繁忙期でも必ず決まって行う。試算表は翌月の10日までに必ず手 元に届く。会議の資料は、決まった形式で会議の前日に担当部門から提出さ す。担当者がいなければ、自分でする。何も大企業の様に、大袈裟な資料は必 要ない。しかし、数字だけは自分で確かめる。 ・経営指標も、常時ウォッチするベンチマークは決めてある。そんなに多くな いが、先代からこういう数字だけはきちんと把握するように、厳しく叩き込ま れた。自分の会社の業種、業態からすれば、こういう経営指標は重要だと、先 輩経営者やいろいろな人から学んだ。経営勉強会にも参加し、大学の先生や多 くの先輩企業経営者の失敗談、成功談から学学習した。時代と共にそれも変わ るだろうが、過去のデータの大事なところだけは抜粋して、肌身離さず「大事 ノート」に書いてある。少しおかしい数字が出てくると、とことん原因を追求 する。性格的に、あいまいにするのが嫌いだ。それでも確たる原因が分からな いことも多い。1回、1か月だけだと分からないこともあるが、数か月続くと 徹底的に理由を追及する。 <常にベンチマークする指標を決める> ・ベンチマークする指標は企業ごとに違うはずだ。何がいいのかは一概に言え ないが、業種で大きく異なることは間違いない。製造業、卸売業、小売業、 サービス業では、かなり違う。サービス業でも、以前は一般的な指標はあった が、最近はWEBやNET、SNSなどが発達して、業態が様変わりしている。しか し、どの企業も原材料か商品を仕入れ、加工し、付加価値をつけ、得意先や個 人に販売し、売上を計上する。その基本は変わらない。となると、売上があ り、(製造か仕入かは別にして)原価があり、差し引いた粗利があり、いろい ろな経費があり、残った利益がある。この構図はどの企業も同じだ。あとは、 月度や季節で大きく違うか、前年同月と比べるのがいいのか。どの数字を、い つと比較すれば課題がたやすく発見できるのか。 ・売上の中身の分解は大事だ。得意先別か、業種別か、地域別か、販売チャネ ル別か。BtoBのように企業から企業への売上か。BtoCのように個人消費者への 売上か。あるいは、店舗別か、商品別か。いずれにしても、常に変化はあり、 その変化の兆しを見逃さないために、どういう指標をチェックするかを決めて おかないといけない。単なる売上だけの数字では分からない。税理士さんはそ れでもいいが、経営するとなると中身が問題だ。細かい変化を見逃さないため には、数字のチェックは必ず自分で納得するまで行う。どういう切り口で分け ればいいか、どれくらいの時間的なスパンで見ればいいか、新しい得意先と古 い得意先の区別はどうすればいいか。悩ましいが、どこの教科書にも正解は書 いていない。自分で見つけるしかない。 ・特に、損益の中身を細かく見る必要がある。棚卸資産(原材料もあれば製 品、商品の在庫もある)は適正か。売上原価から計算して、この棚卸資産の額 は正常か。付加価値(売上から原材料、外注費などの変動費を引いたもの)は いくらか。付加価値に占める人件費総額の割合(これを労働分配率という)は 適正か。通常は50%から60%くらいだ。自社は異常に高くないか。人件費総額 や経費は、年々増加していくので、売上の伸び率、経費の伸び率はどうか。一 番まずいのは、売上が伸びないのに、経費が増えている状態だ。あるいは、売 上の伸びに応じて粗利が増えていない場合もある。ここ5年くらいの変化はど うか。売上が伸びていくときは、当然固定費ではあるがいろいろな経費も増え ていく。売上の伸び率と経費の伸び率を比べておく。 <資産と負債も必ず見る> ・一番問題なのは、売上、利益という損益より、資産と負債の貸借対照表を見 ていないことだ。ほとんどの経営者が、この数字を把握していない。細かい数 字が勘定科目ごとに並んでいるので、ぱっと見た時に分からない。しかし、原 理原則を学べば、そう難しいことではない。基本は簡単なことだ。その理屈を 理解せずに、並んだ数字のみを眺めるから、こんがらがる。上から、一定の法 則で並んでいるから、その法則を理解する。現預金から始まり、売掛金、棚卸 資産と並んでいるはずだ。現預金は当然大事だが、いろいろな事情で増減す る。売掛金も月商の何か月分あるのか。普通は1か月から2か月以内だろう。 売掛金とはそういうものだ(建設業や現金商売では違うが)。業種にもよる が、3か月分以上あれば絶対におかしい。 ・固定資産は、建物、機械装置、車両、土地などだ。有価証券や保険積立金な どが多額の企業もある。固定資産は、そう簡単に現金に換えられない投資対象 だから、長期借入金と純資産の合計との比率(これを固定長期適合率という) が製造業では特に重要だ。資産の合計が総資産で、これが売上の何倍、何割あ るのかは非常に大事な指標だ。人間で言えば体重だ。体重が増えたとしたら、 筋肉が増えたのか、皮下脂肪が増えたのか、何が増えたのかが分からないとい けない。売上全体を総資産の金額で割った数字を総資産回転率という。一般的 には回転率は高い方がいい。会社が持っている総資産で、いくらの売上を創造 しているのか。少ない資産で大きな売上なら、効率がいい。投下した資金が十 分売上に化けている。 ・総資産の金額は、負債総額と純資産の金額の合計に同じだ。つまり、貸借対 照表の左側が資産であり、右側が負債と純資産だ。負債のほとんどは、買掛金 と未払金、借入金だ。借入金には、短期の借入金と長期の借入金がある。短期 の借入金は通常運転資金の借入だ。増えたり減ったりしているはずだ。これが 月商の3か月分以内が正常だろう。長期借入金は、通常設備投資の借入だ。5 年から10年くらいの長期で返済する。正常な企業経営ならこの通りだが、借入 が異常に増えてくると短期借入金の返済が滞り、長期借入金の中に運転資金の 借入が混在してくる。こういう状態になると、経営者の頭の中がこんがらがっ ている。もう、短期も長期も区別がつかない。金融機関も、短期で返済できな いから、仕方なく長期に振り替える。 <自分で確実に数字をつかむ> ・こういう状態になると、正常とは言えない。ところが、資金が回っているの で、経営者が大丈夫と勘違いする。かかりつけ医である税理士事務所からのア ラート(警鐘)も鳴らない。明らかに熱が出ている、体調に異変が起こってい る、症状や兆候が出ているのに、見過ごす。見逃しているのではない。見て見 ぬふりをしているのだ。誰も警鐘を発しないから、経営者は前しか見ずにどん どん車を走らせる。後ろから覆面パトカーが来ているのも、気が付かない。そ のうちに月末の運転資金が不足してくる。経理担当者が青い顔をして、社長に ご注進に及ぶ。それでも、まだ大丈夫、大丈夫と痛みを感じない。来月の5日 に大口の売掛金が入れば、それまでの10日間だけの資金不足だ。それなら、自 分の懐から少し用立てておこう。それで事足りる。 ・月次の指標はほとんど見ていない。月末を越す資金が足りないというのは異 常事態だ。しかし、不都合な真実には目をつぶる。今月をやり過ごせば何とか なる。場合によっては、買掛の支払いを少し待ってもらうか。あるいは、社会 保険料の納付を少し遅らすか。最悪、自分の役員報酬をしばらく未払にする か。こういう姑息なやり方でしのいでも、いずれ資金繰りが破綻するのは目に 見えている。しかし、そうは思いたくない。こうなると、経営者の最大の仕事 が資金繰りになる。本業の現場でものを考えている余裕はない。とにかく、目 先、目先の仕事をこなし、資金の手当てで走り回り、銀行を回り、仕入先と交 渉し、得意先には早期の入金を依頼する。自分自身でも何をやっているのか分 からなくなり、迷路に迷い込む。 ・数か月前、1年ほど前には、異常値が出ていた。完全におかしい状態になっ ていた。しかし、誰もそれを指摘しなかった。創業以来、誰からもそんなこと を言われたことはなかった。順調ではなかったが、ここまでおカネで苦労した ことはなかった。試算表は数か月遅れて出てくるので、ほとんど見ていない。 感覚的には、経営は分かっていると自負していた。会社のことは自分が一番よ くわかっていると自信があった。誰からも、何も言われる筋合いはないと思っ ていた。経理を担当する奥さんからは、毎月おカネが心配だとのアラートは あったが、笑って大丈夫とやり過ごした。そのうち業績は回復し、資金繰りも 挽回できると思っていた。いざというときには金融機関も協力してくれると甘 い幻想を抱いていた。しかし、死期は確実に迫っていた。