**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1138回配信分2026年02月16日発行 真面目にやってきた中小企業経営者が陥る経営危機 〜コロナ明けでも戻らない業績で元金返済停止に陥る〜 **************************************************** <はじめに> ・コロナが明けたにも関わらず、依然として業績の低迷に苦しんでいる中小企 業は多い。コロナ禍の最中に借り入れた融資の返済ができないので、止む無く 返済停止を申し入れた中小企業が多くある。複数の金融機関から借り入れてい たので、申し入れは難しいかと疑心暗鬼だったが、拍子抜けするくらい簡単に 承諾してくれた。現在の試算表と、簡単な資金繰り表の提出を求められただけ だった。ただ、当然のことながら承諾はしてくれたが、新規の融資は今後難し いと言われた。資金繰りに行き詰まったときの対策は浮かばないが、とりあえ ず毎月の元金の返済はゼロになった。金利は払わないといけないが、毎月100 万円近く返済していたことを思うと、肩の荷が下りた。これで当面の資金繰り は楽になると思っていたが、甘かった。 ・月末の返済分は確かに計算上残るはずだが、それまでの未払い分のいわば別 の借金が相当残っている。社会保険料の滞納分、消費税の滞納分などが多額に あり、借入の返済を停めただけでは賄いきれない。滞納分は分割払いにしても らったが、それでも毎月の資金繰りはマイナスになる。売上は依然として横ば いで、上昇に転じる気配はない。仕方ないので、まず自分の役員報酬を相当減 額した。次に、従業員に対し希望退職の呼びかけを行った。数名が応募してく れたが、退職金を少し増額しないといけないので、この手当の目途が立たな い。結局、自分の個人資産を取り崩し、なんとか手当てした。金融機関から は、半年後にまた実績を見てどうするか検討すると言われた。昨年の12月から 返済停止したので、次は5月の連休明けごろか。 ・それまでに業績挽回の対策を考えないといけないが、妙案は浮かばない。1 月も正月明けで例年売上は伸びない。2月は日数も少なく、いつも年間で最低 の売上額になる。この2か月の低迷のツケは3月の資金繰りに影響する。3月 になり、多少暖かくなると売上も少しは増えるが、大きく資金繰りに貢献する には至らない。結局、半年経っても業績が目に見えて改善するとは思えないの で、また返済停止の延長をお願いすることになりそうだ。どんどん後ろに伸び るので、いつまで延ばせばいいかわからない。1年ではとても難しい。2年 か、3年か。自分の年齢(70歳)を考えると、不安が先に立つ。後継者と思し き人はいないので、今後ずっとこの状態が続くのだろうか。残りの人生を考え ると暗くなる。 <とうとう自宅まで担保に入れた> ・この事業者は、何も大きなミスはしていない。悪いこともしていない。社会 的に糾弾されることもしていない。逆に、コツコツ一生懸命やってきた。自身 で30歳少し超えた時点で創業し、ほぼ40年近く脇目もふらずやってきたつもり だ。バブル景気の崩壊も、阪神淡路大震災も乗り越えた。2000年問題もなんと かクリアーした。リーマンショックのときは相当落ち込んだが、まだ借入が少 なかったので、運転資金が借入できたことで事業はとりあえず継続できた。東 日本大震災の影響は、あまり大きくなかった。しかし、コロナショックで事業 環境は大きく変わった。外出が控えられ、生活様式が様変わりした。在宅勤務 が増え、円安による物価高が追い打ちをかけた。どうしていいか分からないま まコロナ台風をやり過ごした。 ・しかし、コロナ明け業績は一向に戻らない。以前の7割くらいの売上にとど まっている。粗利が20%くらいしかないので、損益分岐点売上にはるかに遠 い。通常の経費、人件費の負担が重たく、ムダな経費は当然切り詰めたが、そ れでも毎月赤字になっている。手元のおカネはどんどん減って行く。通帳を記 帳するのが怖い。コロナ融資をたくさんもらったが、どんどん資金が目減りし て、とうとう底を尽きかけている。もっと早く返済停止を依頼するべきだった のだろうが、親しい友人から返済停止をすると次の融資をしてくれないので、 止めない方がいいとアドバイスをもらった。また、メイン金融機関はなんとか 返済している間は、空いた融資枠以上に融資をしてくれた。これで生き延びて きたが、いまここで力尽きた。 ・何を間違ったのか分からない。そんなに贅沢もしていない。コロナでもらっ た補助金、助成金でパソコンを買い替え、自分の車を買い替えたくらいだ。コ ロナ台風をやりすごしたら、また元に戻ると思っていたが、現実はそうはなら なかった。真面目にコツコツやってきたつもりだが、昔なら頑張れば売上は多 少時間がかかっても元に戻った。繁忙期は遅くまで営業して売上を作った。従 業員もよくついてきてくれた。休みの日に出勤してたまった仕事を片付けた。 遅くまで残業して、翌日の準備に励んだ。一生懸命やったのに、気が付けば借 入が売上を大きく上回る事態になっていた。支払っている利息が半端な金額で はなくなった。会社の土地、建物は当然担保に入っているが、それでも足りな くなり自宅まで担保に入れた。 <新規の借入は比較的簡単だった> ・業績は確かに以前よりは悪い。売上も最盛期の7割くらいだ。原因として思 い当たると言えば、商品を買い込み過ぎ、売れ残りが不良在庫になりその大量 の在庫を処分したことくらいか。事業を拡大しようと目論んで従業員を多く雇 用し、新しい事業を始めたが、それがほとんど失敗に終わった。その投資を回 収できるどころか、大きな赤字を作った。どの事業も真面目に取り組んだが、 結果は芳しくなかった。決して不真面目にやったのでもなければ、手を抜いた わけでもない。運がなかったと諦めて、比較的早めに撤退したくらいだ。従業 員も夜遅くまで頑張ってくれた。誰も悪くないし、自分自身も悪いことをした とは思っていない。しかし、結果は良くなかった。気が付けば、売上の2倍以 上の借金が残った。 ・いまだに何を間違ったのか、釈然としない。永年付き合ってきた顧問税理士 も、毎月の試算表を届けて、決算書を作成し、申告書を税務署にきちんと提出 している。赤字の連続だから法人税は均等割り分の7万円しか払っていない。 税理士事務所の担当者も、税理士個人からも、何のアドバイスもなければサ ゼッションもない。ここに至るまでに、分かれ道はたくさんあったはずだ。い つも間違った方を選んだのだろうか。友人や知人とはたまに居酒屋で一緒にな るくらいで、特に事業の中身を相談する人もいない。税理士がもっと事業に関 してアドバイスをしてくれるものだと思っていたが、どうもそうではなかっ た。親戚、友人知人を見渡しても、どうも気の利いたコメントをしてくれる人 材が周りにはいなかった。 ・金融機関の担当者も、特に融資の際には何も言わなかった。融資の申請書を 書いて持っていけば、数日後に稟議が下りたと連絡があった。保証協会の比較 的年配の担当者からは、新規融資に対する返済に関して少し辛辣な質問があっ たくらいだ。ただ、いつだったか当座の運転資金融資枠の増加を申請したとき に、自宅を担保に入れることを要求された。そのときは、特に意識せずに印鑑 を押した。権利書は手元を離れ先方保管となり、抵当権が設定された。最悪の ときに自宅がなくなるかもしれないという危機感は全くなかった。事業が行き 詰るという心配すらなかった。いずれ業績は回復し、また利益が出るだろうと 思っていた。創業してしばらくは順調だった。また、あの当時の状態にいずれ 戻ると信じていた。 <進むに進めず、止めるに止められず> ・決して手を抜かず、一生懸命にやってきたつもりだ。しかし、気が付けば売 上の2倍以上の借金があり、個人保証もあり、会社の土地、建物、自宅まで担 保に入っている。もうこれ以上の財産はない。あとは、僅かになった個人の資 産が続くまで頑張るだけだ。業績の回復を祈るばかりだが、その兆しはあまり 感じられない。何より、お客さんの趣向が変わった。購買行動も変容した。 WEBで検索し、閲覧し、評判を確かめ、店舗で現物を見たうえで、NETで注文す る。自社のホームページは見栄えもあまりよくなく、更新も長い間行っていな い。閲覧の履歴も調べたことがない。SNSにもあまり縁がなく、ようやく最近 スマホを使うのに慣れたくらいだ。遅れているとは思うが、できる人材がいな いので仕方ない。 ・従業員も年配の人が増えてきた。30歳台の若い従業員は一人しかいない。ベ テランの従業員の仕事に安心感はあるが、新しいことを提案はしてこない。慣 れたやり方をしていれば、ミスはないし楽だ。新しいことをやりだすと、面倒 がる。昨日と今日も同じがいい。自分自身もそうだったかもしれない。事務所 の引っ越しもしないので、古い紙の書類や伝票が段ボールに入れて積みあがっ ている。従業員との会議もほとんど開いたことがない。朝礼は確かにしている が、連絡事項と社長である自分の独演会のようなものだ。年初の訓示の際に売 上の目標を示すくらいで、会社の今後の方針などを説明、検討、議論したこと はない。してもまともな意見は出ないと思って、やっていない。息子と娘は、 実家を出て東京方面で就職した。実家の商売を継ぐ気はない。 ・このような中小零細企業が、実はまだまだ多くあるだろう。この企業の今後 は現時点では未定だが、仮に大きく変身するには相当の時間とエネルギー、人 材、資金が必要だ。果たして、金融機関が待って支援してくれるか。立ち直る 可能性はあるか。社会や市場のニーズを得られるか。止めるに止められず、続 けるに続けられず、進も地獄、退くも地獄か。立ち止まると、自転車の様に転 倒し、大けがをするだろう。しかし、漕ぎ続ける力はもう残っていない。実 は、このような悩ましい事業者がまだたくさんある。力のある事業者に引き 取ってもらえるなら、それが最善かもしれないが、借金の多さがネックにな る。退院できない多くの管につながれた寝たきりの患者のようなものだ。この ままでは医療費の無駄遣いになるか。