**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1136回配信分2026年02月02日発行 人手不足で倒産する企業が増加している 〜従来のやり方では人手不足に対応できない〜 **************************************************** <はじめに> ・人手不足を理由に倒産する企業が建設・物流業界で急増しているというデー タが帝国データバンク(以下TDB)の調査で明らかになった。TDBは、従業員の 退職や採用難、人件費高騰などを要因とする「人手不足倒産」(法的整理、負 債1,000万円以上)を集計し、2025年は全国で427件だった。過去最多を更新 し、そのうち建設業界は113件、物流業界は52件といずれも最多。この原因を ひも解くと、働き方改革の影響や中小企業の経営面の問題が浮かび上がってく る。「人が足りない」だけで企業が倒産するのか、という疑問が浮かぶ。建設 ・物流の倒産が「需要の減少」とは別の理由で増えているのではないか。単に 人が減った、採用できないというだけで、企業が簡単につぶれるのか。別の構 造的な原因はないか。 ・小規模な中小零細企業ほど人手不足の打撃は重い。人手不足倒産の77.0%は 従業員10人未満の企業だ。1人欠けただけで工程や運行が止まり、代替要員も 確保できない。結果として、受注を抱えたまま資金繰りが崩れ、成り立たなく なる。表面上は「採用できない」「採用できてもすぐに辞める」といった理由 はもっともらしい。ただ、現場の感覚では単に人が減ったのではなく、従来の 仕事の回し方では、事業そのものが成立しにくくなった、業務のやりかたにひ ずみが生じているという、従来にない側面が大きい。人がそれなりに充足して いた時代の仕事のやり方のままでいると、昨今の人手不足の時代では仕事が回 らない。といって、すぐに変えるのは難しい。おっつけ、その日の目先の仕事 を片付けることが優先される。 ・背景としてあるのは「2024年問題」だ。政府が決めた働き方改革関連の時間 外労働の上限規制で、物流業務に設けられていた猶予期間が2024年3月末で終 わり、2024年4月から新しい規制が適用された。厚生労働省は物流の業務で は、従来実質的に青天井だった時間外労働の上限を年960時間とした。一方、 他業種で適用される一部の規制(月45時間を超えられるのは年6カ月まで等) は適用されないとした。このため、長時間労働に依存した働かせ方、働き方は 取りにくくなり、上限の枠内で業務を組み替えることが求められることになっ た。この対応がすぐにできない。どうしても従前の働き方を前提に受注を受け る。納期が迫った目先の仕事が優先され、業務改善にエネルギーがかけられな い。代表者も現場で走り回っている。 <従来の業務の回し方では難しい> ・建設業については、上限規制を他の業種と同様に720時間で適用した。ただ し、災害復旧・復興の事業では、時間外労働と休日労働の合計について月100 時間未満、2〜6カ月平均80時間以内とする規制が適用されないなど、例外があ る。長時間労働に頼った供給力が縮み、しわ寄せが中小の現場に集中しやすい 構図が生まれている。現場の制約が強まると、倒産は建設・物流の内側にとど まらない。製造業にとっても、輸送の遅れは部品の欠品や在庫の積み増しにつ ながり、工場の稼働計画を揺るがす。工場新設や設備更新を担う建設現場業務 の停滞は、投資計画の遅れを招く。人手不足倒産の増加は、供給網の「薄さ」 「貧弱さ」が露見した結果でもある。現場作業にかける人員が集まらないの で、全国各地で新しい建築計画が保留になっている。 ・なお時間外労働の上限規制は「月45時間・年360時間」が原則で、臨時的な 特別の事情がある場合に限り特別条項付き三六協定で上限を引き上げる仕組み だ。倒産が増えたことは事実でも、「不可抗力だったのか」「経営の問題だっ たのか」で見方は変わる。人手不足倒産の多くは、単発の事故ではない。採用 難が続く局面で、賃金・労務管理・生産性のどこかに「遅れ」があった企業 が、制度変更や人件費上昇を契機に一気に表面化した。防げたかどうかを見極 める上で重要なのは、企業が「人手不足」を外部要因として片付けず、経営指 標として捉えていたかだ。規制がかけられることは、相当以前から周知の事実 だった。いろいろなアラート(警鐘)も上がっていた。しかし、漫然と構えて いた事業者も多い。 ・物流であれば、積載率や待機時間、荷待ち・荷役の発生地点、運行あたりの 粗利といった要素を分解し、どこに無駄があるかを可視化することが必要だ。 建設であれば、手戻りを生む工程、段取り替えの頻度、資材搬入の詰まり、現 場監督の負荷といった「ボトルネック」を特定することが欠かせない。これら は個別最適の改善に見えるが、少人数でも回すには不可欠だ。加えて、取引構 造の力学も無視できない。荷主や元請けが強い立場にある場合、下請け側は短 納期・低単価・突発対応を抱え込みやすい。残業で吸収してきた業務が吸収で きなくなれば、品質や納期で事故が起き、信用不安から受注が細る。人手不足 倒産は労務の問題というより、取引条件の歪みが限界に達した結果でもある。 偶然ではなく、必然の結果だと認識する必要がある。 <「人」で倒産する理由> ・TDBも、今後は大企業の賃上げペースが加速する中、追随できない小規模事 業者を中心に「賃上げ難型」の人手不足倒産が懸念されるとしている。制度対 応の遅れと価格転嫁の弱さが重なると、倒産は「防げない」のではなく「防ぐ 手段を失っている」と言い換えられる。次に問われるのは、同じ現象がどこま で広がるかだ。TDBの集計は建設・物流に限らず、労働集約型の業種で人手不 足倒産が増えていることを示している。2025年には老人福祉事業、美容業、警 備業、労働者派遣業などでも倒産件数の増加が確認された。共通点は「需要が あっても、供給(人)で詰まる」ことにある。倒産リスクを高める条件は大き く3つに整理できる。 ・第1に、特定のキーパーソンに依存する体制、つまり属人化だ。10人未満の 企業であれば、現場を回す技能者や運行の要となる担当者が抜けるだけで稼働 が止まる。実例として、福井県の一般貨物自動車運送事業者は、ドライバーの 退職などで人手不足が慢性化し、事業継続の見通しが立たず破産手続き開始決 定に至った。「誰が抜けても回る」設計ではない小規模事業者ほど、退職がそ のまま「操業停止の引き金」になりやすい。第2に、工程・運行の「余白」を 残業で埋めてきた業務設計だ。上限規制が効くほど、吸収できない遅延や突発 対応が増え、品質事故や契約不履行のリスクが上がる。特に物流は、2024年問 題(時間外労働の上限)を境に「残業で埋める」モデルが効きにくくなった。 ・第3に、価格交渉の弱さ。価格転嫁できない企業は賃上げ原資を確保でき ず、人材市場でさらに不利になる。たとえば冷凍・生鮮食品の配送を手掛ける 福岡県の事業者は、燃料費高騰に加え、2024年問題や人手不足による人件費の 高騰などのコスト増が赤字を拡大させ、破産手続き開始決定に至った。ここに 金利・資材価格・燃料費などの変動が重なると、資金繰りの余裕は一気に薄く なる。人手不足倒産は「人が足りないから」ではなく、「人が足りない状況に 耐える業務設計になっていないから」増える。2024年問題は、その弱点を露呈 させる踏み絵、リトマス試験紙になった。人口減少や労働市場の流動化が進む 中、人手不足倒産の増加傾向は2026年も継続する可能性が高い。事実、その兆 候が早くも表れている。 <業務のやり方を見直す> ・乗り越え方は、精神論ではなく「業務設計のやり直し」だ。中小企業は仕事 の構造の変革を進めないといけない。第1に、現場の制約条件を見える化し、 受注の取り方を変えることだ。受けたい仕事をすべて受ける発想から、納期や 人員の制約に合わせて受注を選別し、採算を確保するという発想に切り替えな いといけない。第2に、標準化と分業で属人性を減らす。手順の整備、教育の 短縮、段取りの共通化は、少人数でも回る確率を上げる。第3に、価格転嫁の 土台をつくる。単価交渉は「お願い」ではなく、制約とリスクを数字で示し、 継続供給の条件として提示する必要がある。第4の制度対応も重要だ。時間外 労働の上限規制の枠組みを前提に、三六協定や労務管理の運用を整えること は、現場の生産性を再設計する起点になる。 ・2024年問題は、建設・物流が抱えていた「長時間労働で帳尻を合わせるモデ ル」の限界を示した。倒産増は終点ではなく、産業構造の転換を迫るサインと して受け止めるべきだ。人口減少が加速度的に進むので、労働人口も当然減る はずだ。海外からの労働者でカバーできている間に、上記に書いたいくつかの ポイントをクリアーしないといけない。漫然と旧態依然とした、人数×稼働日 数×労働時間という計算式で売上や利益を計算していないか。欠員ができた ら、中途採用で補充しカバーするという発想は、成り立たない。営業であろう が、生産現場であろうが、物流業務であろうが、管理事務業務であろうが、す べては同じことだ。そう考えると、今後売上が大きく伸びるという計画は立て にくい。売上は増えない中で、どうやって利益を増やすか。 ・鍵は、現場の制約を数字に置き換えていたかどうかにある。物流であれば、 ドライバーの拘束時間や休息時間、配車計画の組み直しによって「運べる量」 が減る可能性を、売上や粗利の計画に落とし込めていたか。建設であれば、工 期の見直し、段取りの標準化、協力会社との役割分担の再設計などを、元請け ・施主との交渉材料にできていたか。もうひとつの分岐点は価格転嫁だ。人件 費が上がっても単価が上がらない、あるいは上げられない企業は、採用競争で も不利になりやすい。賃上げできず人が集まらず、回らず、さらに単価が取れ ないという悪循環が起きる。事業に優位性があり、他社が簡単に模倣できない ビジネスモデルがあれば、競争優位性は確保できる。価格交渉もしやすい。そ のような事業に徐々に変えていかないといけない。