**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1131回配信分2025年12月29日発行 不確実な時代に中小企業は成長戦略を描けるか 〜追いかけるのは売上規模ではない〜 **************************************************** <はじめに> ・この不確実な時代に多くの中小企業は未来に向けた成長戦略を描けるだろう か。まともに考えると非常に難しい、厳しいだろう。ただし、まともに考える と、という前提だ。「まとも」とは、従来通り、以前と同じという意味だ。本 業の内容も変わらず、同じように生業に集中して事業を営むとすると、非常に 厳しい。どうして厳しいかと言うと、まず人口が減る。これは確実に迎える現 実だ。毎年、80万人から90万人くらいの人口が減って行く。人口の少ない地方 のひとつの県くらいがなくなっていく。ちなみに、日本の都道府県で最も人口 が少ないのは鳥取県で約55万人、次いで島根県の67万人、高知県の69万人と続 く。徳島県が72万人、福井県が77万人、山梨県・佐賀県が81万人で90万人以下 の県だ。 ・これらの県が毎年ひとつずつ消える。逆に多い順で言えば、東京都は約1400 万人、神奈川県が923万人、大阪府が883万人、愛知県が754万人、埼玉県が734 万人、千葉県が628万人だ。これは令和2年度の国勢調査の結果だから、さら に現在では過疎化、都市部への人口集中が進んでいるはずだ。残念ながら、少 子化のトレンドは止まらず、高齢化は進行し、下手をすると毎年100万人くら いの人口が減少するかもしれない。2050年には確実に1億人を切るだろう。現 実の人口減少の実績は、多くのシンクタンクの計算上の想定を上回る。これで は日本人だけの社会で成り立つのか、という素朴な疑問がわく。当然労働人口 も減少し、働き手が減る。労働集約型の人手で成り立っているビジネスは、継 続維持が難しい。 ・対象市場が縮小したり、減ったり、なくなったりすると、その市場でメシを 食っていた企業や事業者はどうするか。ひとつは、撤退。ひとつは縮小。逆に 全くのゼロにはならないので、生き残り勝ちを目指すという戦略も成り立つ。 撤退の場合も、コストがかかる。何事も始末するには費用が要る。この費用が 捻出できないと、赤字の垂れ流しになっているが、止められない。傷口がどん どん拡がり、気が付けば大変な負債になっている。京都の某女子私立大学は、 始末できる資金のあるうちに撤退を決定した。賢明な決断だと思う。撤退を決 定してからも、数年間は後始末のために事業を縮小しながら継続する必要があ る。当然その間は赤字の垂れ流しになるが、社会的な責任があり、止めるに止 められない。 <市場を変え海外で勝負できるか> ・次の選択肢は「縮小」だ。縮小とは、事業規模を小さくすること。1億円の 売上がある企業を縮小して7000万円にするというケースだ。飲食店で言えば、 3店舗を2店舗にする。赤字の店舗を閉鎖し、縮小する。以前なら、赤字の店 舗を閉店し、見込みのある地域に新規に出店して、マイナス1、プラス1で店 舗数は変わりなく運営する。しばらく売上は落ち込むが、数年後には回復す る。しかし、現在ではこの方式は通用しない。なぜなら、同じ市場だと確実に 市場は縮小しているからだ。唯一伸びている市場は高齢者市場。しかし高齢者 市場といえども、物価高で購買意欲は減少し、あと20年後には高齢者市場も縮 小する。団塊の世代のボリュームゾーンがどんどん亡くなっていくからだ。高 齢者市場も頼りにならない。 ・日本市場では縮小するが、海外に出ていくならば、話しは別だ。韓国、中 国、東南アジアや、アメリカなど。あるいは、少し遠いがインド、アフリカ諸 国。中東も可能性はある。スズキ自動車はインドに早くから進出し、成功し た。中小企業で海外に市場を求めるのは、相当リスクも高いし、時間も費用も かかる。人材も乏しいし、現地住民で運営できるレベルになるまでには、相応 の時間がかかる。しかし、日本国内でじっとしていては、いずれ自然死になる なら、リスクをとって海外に出ていく選択肢は間違いではない。いきなり出て いくと、現地で討ち死にする可能性が高いので、相応に準備し、ここまで投資 するという資金を用意し、現地の情報を事前に入手し、現場で協力できる人材 を確保する。 ・最近では、京都でも地元中小企業が果敢に中国などへ出店する動きが加速し ている。飲食事業や食品製造販売などの事業が多い。味の好みや嗜好は多少異 なるが、「食べる」という行為は同じだ。大企業製造業は古くから海外に進出 しているが、中小企業となると、なかなか成功していない。単なる業務提携で は親しい関係というだけだから、最低限出資して親戚にならないといけない。 提携から出資、人的交流、幹部社員の出向、役員派遣、ノウハウの共有化、出 資比率の増加などを経て、最終的には子会社化するか、現地法人のままで運営 するか。ここまで来るのに、最低10年近くかかるのではないか。長期に戦略を 立て、資金と人材を準備し、不退転の決意で臨まないと成功しない。代表者の 覚悟が問われる。 <ニッチ市場で勝負する手もある> ・生き残り勝ち戦略は、規模の大きい企業でないと難しい。最後は資金力にモ ノを言わせて押し切る。個人の格闘技と同じで、長い目で見れば体格の大きい 方が最後には勝利する。たまに小さな力士も大柄の力士に勝つこともあるが、 ロングランだと勝てない。マージャンで下手もたまには勝つが、徹マンになり 回数が増えると実力通りの結果になる。規模の小さな中小企業の生き残り戦略 は難しい。例外として、市場が極めて小さく、独占的に事業を営んでいる場合 は、生き残りも可能だろう。無人島の弁当屋ではないが、市場規模を求めない なら、それはありだ。伝統産業も日常使いは難しいが、工芸品という市場なら 生き残れるか。ただし、国内での成長は望めないが、海外で評価される可能性 はある。 ・中小企業の今後の成長戦略の基本は、縮小して付加価値を上げる事だろう。 売上の増加を第一目的としないで、微増で結構だ。微増なら二重丸だろう。少 なくとも、減らないという水準を維持できればいい。売上を維持しつつ、利益 率、利益の絶対額を増加さす。原材料の原単位(1の原材料からできる製品の 量のこと)を向上させる。分かりやすく言えば、歩留まり、A級合格率、不良 品率を改善することだ。あるいは設備投資をして作業効率を上げることだ。5 人で担当していた仕事を3人で同じようにできるようにする。経理、営業、物 流業務なども同じだ。専門的な言葉で言えば、労働生産性を上げることだ、AI の活用、作業の機械化、業務手順の変更など、多くの工夫、改善の余地がある はずだ。 ・既存の事業で利益率を上げることが難しいなら、関連した事業に進出する、 あるいは市場を少し変えることだ。ただし、市場を変えて収益力が落ちては元 も子もない。現在まで培ってきたノウハウを利用、応用、活用できる市場がな いか、真剣に探してみる。ずっと寝ても起きても探し続ける。そうすると、見 えてくる景色が変わってくるはずだ。真剣に悩み、真剣に考え、真剣に会話 し、真剣に考えをまとめる。真剣にならないと、見えてくる景色が変わらな い。それができる時間を創ることも仕事の内だ。市場、お客さんを変えると、 従来の製品では通用しないので、少しアレンジしないといけない。今までの製 品を製造してきた技術で、少し違う価値を持った製品が造れないか。24時間考 え続けることだ。 <価値観の転換を> ・そこまで懸命に努力しても、中小企業では不可避なことが起こる。いや、中 小企業に限らず大企業でも想定外のアクシデントや事故、政治的な変化などが 起こる。今年で言えば、大規模災害、トランプ関税、猛暑日の連続、為替の異 常な円安、政局の流動化など。どれをとっても、地方の小規模な中小企業では 避けられない異常事態だ。しかし、目前で起こっていること、起こったことは 現実だ。まず、それを受けいれる必要がある。他人が悪いと文句を言うのは簡 単だし自由だが、それでは解決にならない。他人のせいにしている限り、人間 の成長は見込めないし、企業の成長発展もあり得ない。起こったことは不都合 な真実と認め、それに対処対応する方策をすぐ考える。愚痴や文句を言ってい る間は、対策は出てこない。 ・切り替えが必要だ。今までの実績は、過去のことだ。済んだ話しだ。次の3 年、5年、10年に向かって絵を描くのは、企業自体のミッションであり、事業 者の責任だ。市場が拡大、成長してきた時代は、それに頑張ってついて行けば 良かった。勝手に会社の規模は大きくなり、店舗数は増え、社員数もどんどん 増えて、売上は増加し、それに伴い資産も負債も増加した。人間で言えば、体 重は増える一方だった。洋服も、靴も、住居も、車も、大きいサイズに買い替 えた。しかし、市場が伸びない、拡大しない、いや縮小するなどとは想像でき なかった。ここで、考え方を変えないといけない。市場が伸びないという、認 め難い考えを受けいれないといけない。では、どうするか。単に事業を縮小し ただけでは、現状を維持できない。 ・これからは規模を追いかけることは止めるべきだ。売上や店舗数、従業員の 人数を競い合う時代ではない。収益力、付加価値、利益率、投資に対するリ ターン、時間の短縮、生産性など、新たに競うべき指標は変わりつつある。あ るいは事業自体の存在が社会的な価値に意味がある企業もある。障碍者のため に小さな市場だが製品を供給し続けている企業。文化財の保護、維持、保管の ために永年のノウハウを提供する企業。食料自給率を少しでも上げるために種 苗を研究する企業。老朽化するインフラの保守、修理に独自の検査技術を提供 する企業。規模よりも価値、売上より利益、従業員数より労働生産性などが今 後問われる指標だ。そこに気が付き、早く価値観を転換した企業が生き残る。 そういう時代が、もう目の前に来ている。